本研究の目的は, 歯の動揺が結合組織性付着に及ぼす影響を検索することにある。ニホンザル9頭を用い実験歯は上顎左右側第2小臼歯とし, 対照歯は上顎左右側第2大臼歯とした。歯の動揺の発現法は, 北村1990年) の方法を用いた。すなわち, サルの上下顎左右側犬歯の歯冠を除去し, ブラキシズムを発現させた (後, 上顎第二小臼歯頬側咬頭にアンレータイプの鋳造物を装着した。装着後2, 4および10週で安楽死させた。標本の半分は, ヘマトキシリン・ エオジン染色と墨汁染色を行つた。残りの半分は, von Willebrand Factor抗体および増殖細胞核抗原 (PCNA) 抗体の免疫組織化学染色を行つた。骨縁上結合組織部と歯根膜組織部について検索した結果, 結合組織性付着に関して明らかな差異を認めた。骨縁上結合組織部では, 結合組織内の血管数の増加, 血管内皮細胞におけるvWF染色性の増加, 血管周囲には多くのPCNA陽性細胞を認めた。また, この部位の結合組織性付着は維持されていた。歯根膜組織部では, 結合組織内に血管数の明らかな減少, 血管内皮細胞におけるvWF染色性の低下, 血管周囲にはPCNA陽性細胞を認めなかつた。また, この部位では, 結合組織性付着の喪失を認めた。以上の結果より歯の動揺は, 血管系の消失および損傷により結合組織性付着の喪失を生じることが示唆された。
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