1.はじめに弘前大学教育学部自然地理学教室では,日本海に面する青森県西津軽郡鰺ヶ沢町において,2011年から年1回,町の全小学5,6年生(西海小,舞戸小),全中学生(鰺ヶ沢中学校)を対象に防災教室,防災講演会を実施してきた.これは,2011年東北地方太平洋沖地震の際に,青森県の日本海沿岸においても大津波警報が発せられたにもかかわらず,低地の居住者の避難率が約5%であったことに危機感を抱いた鰺ヶ沢町が,町民の防災意識を高めるために小・中学校の防災教育を充実させたことを受けて実施してきたものである.本発表では,自然地理学を専門とする大学教員,院生,学生,教員養成課程の学生が実践してきた防災教室のおもな内容を紹介するとともに,実践の中でみえてきた課題について報告する.
2.地域概観青森県西部の日本海側に位置する鰺ヶ沢町は,東西約20km,南北約40km,総面積が約340km
2を有する町である.人口は約1万人である.町内は,中期更新世以降に形成された数段の海成段丘面が分布している.また,岩木山や白神山地を源にもつ中村川・赤石川の流路沿いには,河成段丘が分布している.下流部には氾濫原や離水ベンチが広く発達していて,市街地の多くはこのような地形に立地している.
3.防災教室の実施 防災教室は,鰺ヶ沢町町内会連絡協議会主催で西海小学校(平成22年)から始まり,その後,西北教育事務所,鰺ヶ沢町主催で,舞戸小学校(防災教室),鰺ヶ沢中学校において防災講演会を実施した.
小学校での防災教室は,それぞれの小学校の高学年の児童を対象とし,約3時間を使用して実施している.教室のはじめに,教員による津波,洪水,土砂災害の基本的な知識に関する講義を行った後,5~8人程度のグループ(7~10グループ)にわかれて学区内の調査を行う(グループ毎に1~2名の院生・学生が引率).現地調査では標高調査マップ(町で発行するハザードマップに標高調査地点を記入したもの)をもとに,臨時で現地に設けたピクトグラム(標高表示)をもとに,学区の標高分布図を作成する.その際,現地において避難場所・経路の確認,青森県による想定津波浸水深,洪水による浸水深等の確認を行うとともに,海岸の低地に町がつくられてきた理由等について,歴史的な観点(北回り船等)からの説明も行うようにしている.また,①町内の特徴的な地形である海成段丘は,津波の際の避難場所として重要であること,②その形成には地盤の隆起が伴い地形が変化する際には地震が生じる可能性があること,③町の自然の恵みは長い期間にわたる受けることができるけれど,地形変化が生じるような自然現象は比較的短期間であること,などを留意事項としている.その後,現地調査の整理を行い,グループ毎に成果発表を行っている.
4.学校教育への応用 これらの防災教室は,児童・生徒に対して防災に関する知識や意識の向上を(ある程度)もたらしていると思われる.このような防災教室が,学校教育へどのように貢献できるであろうか.防災教室に参加した共同研究者である佐々木は,
弘前大学教育学部附属中学校
の社会科の教員である.佐々木は,地理学・地理教育の専門ではないが,鰺ヶ沢町での防災教室に参加した際に得た諸資料をもとに,附属中学校の生徒たちの実態や,学習指導要領の改訂や教育改革の動向との整合化などを加味しながら授業開発を進め,その成果を報告している(佐々木ほか,2019).授業では,弘前市,およびその周辺に居住する生徒が,鰺ヶ沢町に一時的に滞在している際に,津波に遭遇した場合,どのように対応するのか考える教材を作成した.また,生徒の防災意識の向上に加え,地図リテラシーを高めることも目的とし,ドローンによる画像や動画,またGISなどを活用して教材開発に取り組んでいる.詳細については当日に報告する予定である.
本研究の実施には,科学研究費補助金(基盤(B):代表 村山良之)「東日本大震災の経験と地域の条件をふまえた学校防災教育モデルの創造」を使用した.
引用文献佐々木篤史・小岩直人・小瑶史朗(2019)小教科専門・教科教育・教育実践の協働による中学校社会科の授業開発―防災を題材として―.クロスロード(弘前大学教育学部紀要),23巻,印刷中.
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