本研究は,美術館において作品を前にした鑑賞活動で起こる対話により,個々人の経験,語り,知覚が他者のそれらと連鎖して相互作用し,相互につくりかえられていく活動を分析記述することで,対話による鑑賞活動の過程と特性を明らかにすることを目的とする。作品の横に並んだり,真似をしたり,視線を向けたりするふるまいを見せながら,見えたこと,感じたこと,思いについて語ることや,他者のそれらを見て経験したり感じたりすることで,自他のあいだに作品が現象し,個々において経験,語り,知覚を新たに生起させていく。美術館での鑑賞活動は,作品を構成するものとものとの関係へ向かう身体的志向性と,テクストとしての作品の経験から触発される語りやふるまいが,〈経験-語り/ふるまい-知覚〉の連鎖として,個々人において,また自他間においても越境的に生成されている。
抄録全体を表示