性染色体における雌雄の形態差,およびCHD遺伝子を利用した性判定によって,シマフクロウ
Ketupa blakistoni 137個体(91巣)の巣立ち時
性比
を調べた(1985~99年).その結果,北海道個体群において,雄への有意な偏りが検出された(雄81個体,雌56個体,二項検定
P=0.04).しかし,一腹雛数(1または2)ごとの
性比
には統計的に有意な偏りは検出されなかった(両側二項検定:一腹雛数=1:
P=0.17;一腹雛数=2:
P=0.10).また,巣立ち時
性比
が一腹雛数に応じて異なる,という仮説は支持されなかった(ロジスティック尤度比検定:
X2=0.280,
P=0.597).さらに,各繁殖つがい間および地域間で巣立ち雛
性比
を比較したが,有意な違いは認められなかった.
巣立ち後,分散開始前までの死亡率は,雄が雌より高い傾向にあり,巣立ち時の雄に偏った
性比
は,分散開始までの期間に緩和されている可能性が示唆された.
巣立ち時に
性比
の偏りが生じている原因として,まず性的二型が考えられた.すなわち,シマフクロウにおいては,雌の体サイズが雄より大きい性的二型を示すため,雄への巣立ち時
性比
の偏りはFisher理論からの予測を支持していた.しかし,巣立ち時の雌雄の体重差から得られた
性比
の期待値は,観測された
性比
を下回っており,両者の間には有意差が認められた(
P=0.04,両側二項検定).したがって,巣立ち時の
性比
の偏りは,量的にはFisher理論のみでは説明ができなかった.そこで,巣立ち時の
性比
の偏りに影響を与える他の要因として,局所的資源競争•個体群サイズが小さいことに起因する人口学的確率性が考えられた.前者は,シマフクロウにおいて,雌が雄よりも出生地にとどまる傾向が強いという観察結果によって支持され,娘と親の間に局所的資源競争が生じ,親が子の
性比
を雄に偏らせている可能性も示唆された.さらに,北海道におけるシマフクロウ個体群が絶滅の危機に瀕していることから後者の要因が予測された.
シマフクロウの巣立ち雛における
性比
には,これら,あるいはさらに複数の要因が複合的に影響を与えていることが推測されるが,現段階で主要因を特定することはできなかった.しかし,
性比
の偏りは,種の保全にとって重大な関心事であるため,個体群への今後の注意深いモニタリングが引き続き必要であると考えられた.
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