1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災では,倒壊した建物の下敷きとなった被災者のなかで腎機能障害を呈する者が多発した。このような患者は
挫滅症候群
と呼ばれており,震災や戦争の際に発生することが報告されていたが,その発症機序については十分に解明されていない。今回われわれは,
挫滅症候群
の発症を予測し得る因子が存在するか否かについて検討するため,阪神・淡路大震災で負傷した症例について調査を行ったので報告する。対象は当院に救急搬送された患者のうち,筋肉の挫滅の指標としてクレアチンキナーゼが1,000IU/l以上を示した59人である。これらの患者について血液検査と臨床的背景について調査を行い,腎機能障害が出現した群と出現しなかった群とについて比較検討を行った。腎機能障害は血清クレアチニンが1.5mg/dl以上を腎機能障害の基準とした。その結果,腎機能障害が出現した群では年齢とカリウムおよび白血球数が有意に高値であり,カルシウムと総蛋白とbase excessおよびHCO
3-が有意に低値であった。さらに死亡群と生存群について同様に比較すると,死亡群においてカルシウムだけが有意に低値であった。またLDHやGOTなどの筋逸脱酵素については腎機能障害が出現した群では緊急検査機器の測定限界値を越えていた症例が多かった。したがって,建物等の下敷きになった患者が発生した場合には,まず血液検査と血液ガスの採取を行うべきであり,筋逸脱酵素の高値や低カルシウム血症の存在する場合には,とくに腎機能障害の出現に十分注意して治療が必要であると考えられた。
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