1.はじめに
横浜市の中心部(みなとみらい21地区,関内地区,横浜駅西口地区)を対象地域とした都市構造やCBDに関わる研究は,佐野(1980,2009)らによって蓄積されてきているが,現在も変化が進むこの地区はかつての研究成果が示す都市構造とは異なるものになってきている。また,中心部を構成する各地区の特性の違いも大きい。そこで本研究では,横浜市中心部における今日の都市構造と都市機能の地区別特性について明らかにすることを目的とする。
2.横浜市の中心部の概要
中枢管理機能のうち横浜市役所や神奈川県庁舎といった公共機能は,関内地区に集中している。商業機能は3地区ともにみられるが,横浜駅周辺など路線価の高い区域に規模の大きな施設が集積する傾向がある。
一方,オフィス機能は,みなとみらい21地区に超高層ビル,企業の自社ビルなどが集積する傾向はあるものの,3地区に広く分布している。そこで本報告では,3地区いずれにも多く立地するオフィス機能に注目し都市機能の特性を分析する。
3.オフィスビルの「機能レベル指数」
本研究では中枢管理機能とされる各機能の階層性(次元)を評価する指標として機能レベル指数を求める。本報告では特にオフィス機能に注目してその機能レベル指数をもとめ,分析を行った。この指数には変数として,ビルディングに入居する企業の資本金,企業内におけるそのオフィスの地位(本社等を3,支社等を2,営業所等を1とする),その企業の占有面積を求め,ビルごとに全企業の数値を合計し,建物別に指数を算出した。
4.オフィスビルの機能レベル指数にもとづく都市構造
みなとみらい21地区には,指数5.0以上の施設が多い。特に
新高島駅
付近に6.0以上の施設が多く立地する。例えば日産自動車株式会社グローバル本社の値は8.54である。この地区に進出する企業は資本金が比較的高額であり,大企業の本社もしくは支社・支店が多い。ここには税制優遇を受けられる「横浜市企業立地等促進特定地域等における支援措置に関する条例」(企業立地促進条例)を利用して東京都内から移転してきた企業もある。
一方関内地区には,指数が小さい施設が多く,とくにオフィスが集積する馬車道駅周辺などでも一部を除き指数が4.0未満の施設が多い。これは資本金が1000万円以下の企業が多いためである。ただし,この地区には証券会社,大手銀行の支店などが多く立地するうえ,横浜市役所や神奈川県庁舎,横浜地方裁判所に隣接して,公認会計士,司法書士の事務所や法律事務所が多く立地し,みなとみらい21地区とは異なる性格のオフィスビルが集積することがわかる。
5.中心部の特性の変容
横浜市街地の発祥地である関内地区は,かつて政治・経済の中心地であったが,みなとみらい21地区の開発の進行と横浜市役所の移転などにより,横浜市中心部におけるオフィス機能の重心は,みなとみらい21地区に移りつつある。ただし,中枢管理機能のうち公共機能の施設やそれらと関わりの深い金融業・専門サービス業といった施設企業・機関は関内地区に立地し続けている。
文献
佐野 充 1980.横浜における都市再開発と都心地域の変容.日本大学文理学部自然科学研究所研究紀要,15:83-98.
佐野 充 2009.横浜地区.菅野峰明・佐野 充・谷内 達編『日本の地誌5 首都圏Ⅰ』307-329.朝倉書店.
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