阿寒摩周国立公園は、十和田八幡平・日光・伊勢志摩・大山隠岐・阿蘇くじゅう・霧島錦江湾・慶良間諸島とともに「国立公園満喫プロジェクト」を先行的に実施する8公園に指定され、2020年までに①アドベンチャートラベルの推進、②国立公園の新たな活用(アトサヌプリトレッキングツアー、トレイルルートの整備等)、③官民連携による民間投資の促進、④快適な公共空間の整備が進められた。
しかし「集団施設地区」に指定されている川湯温泉は1990年代以降、団体旅行の減少等により宿泊客数が激減し、約25軒あった温泉旅館・ホテルが2020年3月には3軒となった。
環境省は2020・22年に2軒のホテルを撤去し、跡地に星野リゾートの「界 テシカガ」が建設されることになった。2023・24年には、さらに2軒のホテルが環境省と町により撤去された。短期間での撤去を可能にした要因としては、環境省と町が一体で取り組みを進めたこと、町が過疎債や各種事業を活用したこと加え、ふるさと納税額が58.6億円にのぼり、跡地整備に向けた財政的な余裕が生じたこともあげられる。
廃墟ホテルの撤去と並行して、町はホテル跡地や温泉街の中に残る廃業施設等を取得し、ラグーン、
日帰り入浴施設
を設ける「川湯広場」や「森のアクティビティゾーン」、自然と一体化した店舗や遊歩道を設ける「川湯テラス」等の整備を図る「川湯温泉街まちづくりマスタープラン」を策定した。2024年からは、専門家による「川湯温泉街まちづくりマスタープランオープンデザイン会議」を開催し、住民や関係団体にも検討案を示しながら、新たな施設と自然との調和を図る景観ガイドラインづくりを行っている。
しかし現状では従業員の雇用や従業員宿舎の確保、「界 テシカガ」以外の施設の運営方法や資金調達については具体的計画が示されていない。また、近隣3空港からの公共交通によるアクセス、町内での移動手段も整備が進んでいない。「界 テシカガ」の開業までは2年余りとなっており、今後はこれらの未解決課題の解決が不可避となる。
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