長野県下の2農家から, 5齢後期の遅れ蚕で, 小胞子虫の寄生のため中腸が白変していた病蚕をそれぞれ1頭発見したが, 本病蚕は新しい小胞子虫類に属する原虫による疾病であった。
1. 本原虫の胞子は長さが1.8~2.0μ, 幅が0.8~1.1μで, 長幅率は1.9を示し, 大きさと形が
Nosema bombycis および細型微粒子とは異なっていた。本原虫の胞子が小型であることから, 本病を小型微粒子病と呼んだ。
2. 本病に感染していた幼虫の中腸の外観の症状は, 細胞質多角体病蚕のそれと良く似ていた。本病胞子の寄生は中腸組織以外には認められなかった。
3. 本病に感染した中腸皮膜の電子顕微鏡による観察では, 小型微粒子が円筒細胞の腸腔側に多くみられ, 形成中の極糸が確められた。
4. 本原虫の病原性を明らかにするため蟻蚕および各齢起蚕に高濃度の胞子浮遊液を添食し, いずれも高い感染率を得たが, 病蚕の発現までの潜伏期間が長く慢性的な疾病の様相を呈した。
5. 3齢起蚕に3段階の濃度の本病の胞子を添食し, 24時間後に細胞質多角体の3種の濃度液を添食し, 中腸皮膜における両種病原体の相互関係を調べたところ, 両者が混合感染した個体が観察された。また本病原虫が細胞質多角体病ウイルスの多角体形成を抑制した結果と考えられる原虫胞子のみ形成された個体も多くみられた。
6. 本病原虫と細胞質多角体病ウイルスに混合感染した蚕の中腸皮膜のパラフィン切片にマロリーの三重染色をほどこすと, 胞子は黄色に, 多角体は赤色にいずれも鮮明に染め分けられた。なお胞子はギームザでも好染した。
7. 本病の胞子は70℃で10分, ホルマリン1%および高度晒粉200倍液では5分間の処理で感染力を失った。
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