ニカメイチュウおよびサンカメイチュウの体液と黄きょう病菌分生胞子発芽管の伸長速度との関係は点滴法と体内注入法を用いて調査した。その結果,両種ともその蛹化期が近づくにつれて黄きょう病菌の発芽管の伸長速度は大となり,3月頃から有意的に伸びるが,それは精細胞の形状の変化より早めに現われた。
越冬幼虫の体重と黄きょう病菌の発芽管長の関係を点滴法を用いて調査した結果,ニカメイチュウでは体重と黄きょう病菌分生胞子の発芽管長は正比例し,精細胞および精巣の長径とも平行的な関係を示すことが認められた。サンカメイチュウでも同様の傾向が認められたが,ニカメイチュウとは逆に体重の小さいものほど発芽管の伸長速度は大きかったが,発芽管長と精細胞長径との間には平行的な関係が示された。
ニカメイチュウ1化期では高令になるにしたがって発芽管の伸長速度は早くなり,令が進むにつれてその体液は,黄きょう病菌分生胞子の発芽管伸長に都合のよいように変化することが認められた。各種硬化病菌を用いた結果でも黄きょう病菌と同様の傾向を示したが,黄きょう病菌を用いての調査は,いろいろの点で容易なことがわかった。
以上の結果から,蛹化前期の硬化病菌による高いり病率は温湿度の影響のほかに,メイチュウ自体の体液の変化による抵抗性の低下にも関係があるのではないかとの示唆を得た。したがって幼虫の体液と黄きょう病菌分生胞子の発芽管伸長速度との関係を累年観察するならば,これらの成績をもとにして,ニカメイチュウおよびサンカメイチュウの発生量を予察するという可能性も生ずるわけである。
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