【研究目的】 調理実習は日本全国の小・中・高等学校の家庭科の授業で数多く取り組まれている。家庭科の教科書にはいくつもの実習例が掲載され、広く多くの人に認知されている調理実習であるが、実際には10人の家庭科教師がいれば、10通りの調理実習の取り組みがあると考えられる。しかし、調理実習に関する研究においては、この教師の取り組みの多様性についてはほとんど言及されていない。つまり、ほとんど同じものとして報告される事例も、実は教師の生徒への働きかけや指導方法など多岐にわたっているのである。
そこで、本研究では、調理実習の指導方法をグループのメンバーが相互に振り返ることを通して、教師が白身の調理実習を評価する方法を検討する。これは生徒の実習記録を用いた授業評価の試みでもある。
【研究方法】 メンバーのうち4名の実践を事例として次の手順で行った。
1)調理実習の概略・実態について生徒の実習記録をもとに報告する。2)メンバー全員で報告について議論する。3)報告者は自身の報告・議論について振り返りを行う。4)議論をもとに抽出した分析の視点(分析項目)に従って、4名の調理実習を分析的に評価する。
【結果と考察】(1)4名(A~D)の調理実習の概要(a学年 b1グループ人数/1クラス人数 c何回目/全何回 d献立 e実習の目的 f事前学習 g示範について h質問への対応)
A:a男女共学普通科高1 b3~4/20人 c2回目/全3回 d雑煮、りんごきんとん e日本の伝統食の理解、だしのとり方、飾り切り f1週間前に1時間かけてじっくり説明 gなし h即答せず、レシピにあること・既習事項は生徒間で考えるよう促す。それ以外は口頭説明させる。
B:a男女共学普通科高2 b4~5人/36人 c3回目/全4回 d肉絲炒麺、牛ナイ豆腐 e妙め物のポイント、寒天の扱い方、あんかけの作り方 f1週間前に1時間かけて説明 g臨機応変に h即答。ただし既習事項はその旨伝える。
C:a男女共学工業科高3 b3~5人/27人 c2,3,回目/全4回 d米飯・青椒炒牛肉絲・粟米湯・ナイ豆腐/米飯・大根と油揚げのみそ汁・ぶりの照り焼き・紅白なます・黒ゴマプリン e炊飯の原理・材料の切り方・中華科理の特徴・寒天の調理性・片栗粉の調理性・計量/和風だしについて・塩分濃度について・鍋照り焼きのしかた・せん切り・ゼラチン gほとんど全て h即答。ただし既習事項はその旨伝える。
D:a私立女子校高1 b4~5人/23人 c2回目/全5回 dシュウマイ・粟米湯・
棒棒鶏
・杏仁豆腐 e手順、チームワーク、中国料理、蒸す、片栗粉の調理性寒天の調理性、湯、記録 f1週間前に説明、時間の関係で簡単~丁寧に g簡単に要点だけ h即答。ただし既習事項はその旨伝える。
(2)分析項目を用いた調理実習の分析的評価 「調理実習の分析的評価」とは、以上の報告事例をもとに議論を重ね、実習事例を分析する項目を設定して相互にまたは個々に振り返るもので、教師自身が調理実習をよりよく実践するための方法である。分析項目としては「時間の管理」「レシピの位置づけ」「示範の方法」「生徒の失敗への対応」「質問への対応」を挙げた。4名の教師の実践をこの分析項目にもとづいて比較しながら分析的に評価すると、年間の調理実習全体で目指す目標と各回の目標をそれぞれ設定しており、これらが指導方法を決定する要因となっていることがわかった。ただしこのことは報告者自身には自覚されていないことが多かった。事例を分析的に評価するためには、1回限りの調理実習を対象とするだけではなく、全体における位置づけも検討する必要がある。なお、教師の振り返りに生徒の実習記録を用いるためには、記録を書かせる方法にも工夫が必要であること、記録することが生徒自身の学びにもなることも議論された。
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