神奈川県伊勢原市のスギ人工林において,1994年4月~1995年3月の1年間にわたりスギの
樹幹
流・樹冠雨,林外雨の化学性を測定した。また,スギの
樹幹
から下流方向に幅150cm,深さ90cmの土壌断面を作成し,土壌試料のpH(H
2O),ANC,交換性A1量の2次元分布を調べた。
樹幹
流,樹冠雨,林外雨の年平均pHはそれぞれ3.11,4.41,4.56であり,
樹幹
流は強酸性を呈した。樹冠下の土壌pHは5.8~6.4の比較的高い値であったが,
樹幹
の近傍だけは著しく低く,最低pHは4.05であった。
樹幹
から120cm離れた樹冠外の土壌pHは,樹冠下よりも0.2~0.5程度低かった。土壌pHの低下は,交換性塩基量の減少および交換性A1量の増加とほぼ対応していた。林床における単位面積当たりのH
+沈着量は,
樹幹
流>>林外雨>樹冠雨の順であったことから,
樹幹
近傍土壌のpH低下は強酸性の
樹幹
流の影響,樹冠外でのpH低下は林外雨の影響と推察された。
林床における化学成分の物質収支モデルを用いて,林床にもたらされたH
+の起源(湿性沈着,乾性沈着,樹体からの溶脱)を推定した。その結果,樹冠ではH
+が消費されているが,
樹幹
ではH
+が溶脱していることがわかった。しかしながら,溶脱H
+のみでは
樹幹
流の強酸性は説明がつかず,水分蒸発による
樹幹
流の濃縮,および
樹幹
への酸性物質の乾性沈着が重複した結果であると考えられた。
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