はじめに:喜界島南西部には,大規模な砂丘地帯が存在する.この砂丘地帯には,サンゴ礁段丘上に後期更新世の砂丘と完新世の砂丘が共在しており,砂丘の形成環境を比較検討する上で興味深い地域となっている.ここの砂丘は1900年代後半に分布,層位・編年,形成環境にかかわる研究がなされたが,その後,目立った研究はみられない.この間,テフラ編年や14C年代測定法,砂丘の形成環境に関わる気候変化・海面変化などのより広域でグローバルな古環境変化の研究が進み,喜界島の砂丘に関しても,確度・精度のより高い編年行い,これに基づいてこうした古環境変化と関わる砂丘形成環境を検討することが可能となっている.演者らは2020年の春季日本地理学会において,詳しい砂丘分布および,これと段丘面との関係を明らかにし,さらに喜界島のテフラと14C年代を基に,更新世の古砂丘のうち,
水天
宮地区と赤連地区にある大規模な砂丘の形成は海洋酸素同位体ステージ3(MIS 3)の後半に形成されたことを明らかにした.
今回,テフラ間の土壌の14C年代測定を行い,テフラ編年をより強固なものにし,さらに完新世の砂丘編年を加えて,喜界島南部の砂丘編年を確立し,これを基に,喜界島の砂丘形成と古環境変化との関係を検討した.
テフラの年代:喜界島のテフラは,後期更新世以降7枚のローカルテフラ(上位からKj-1~Kj-7)と,Kj-1の上位にあるとみられる鬼界アカホヤ火山灰(K-Ah, 7,300年前)およびKj-6とKj-7の間にある姶良Tn火山灰(AT,30,000年前)の2枚の広域テフラが認められている(森脇ほか,2020).今回,Kj-1直下,Kj-2直下,Kj-6直上の有機質土の14C年代について,それぞれ13,900 cal BP, 27,300 cal BP, 22,300 cal BPが得られた.後2者は,年代が逆転しているが,ATの層準や,試料の土壌中の層位からすると,下位の22,300 cal BPがより実際の値に近いと推定される.Kj-1直下の年代は,K-AhはKj-1より上位にあることを示唆する.
完新世の砂丘編年と形成環境:湾地区の喜界町弓道場には,厚い砂丘堆積物中に複数の腐植層や陸産貝化石,考古遺物が異なる層位に見られることから,完新世砂丘形成初期の編年と形成環境を検討する上で好条件をもつ.上位の腐植層を洗浄した結果,バブルウォール型の火山ガラスを検出した.この中に淡褐色の火山ガラスを含むことと層位からK-Ahに対比される.この直下の陸産貝類の14C年代は7,450 cal BPを示し,K-Ahの層位と整合する.下位の腐植層からは土器が見いだされ,これに付着した炭化物から7,800 cal BP が得られている(澄田ほか,2003).以上のことから,喜界島の完新世砂丘は,8,000年前ごろから形成を開始したとみられ,一般的な日本列島での砂丘形成開始期より早い.それは,サンゴ礁環境下での多量の砂の生産があったことと,喜界島が顕著な隆起地域にあり,より古い時期に相対的な海面上昇のピークに近い環境が形成され,砂丘砂供給源としての海浜の形成が比較的早かったことによると考えられる.
更新世の砂丘形成:更新世の砂丘はMIS 3に形成されている(森脇ほか,2020).MIS 3段丘面との関係からみて,この砂丘は当時の近隣の海浜由来の海岸砂丘であり,その形成は海面変化に伴う海岸環境の変化と密接に関わっている.そのうち
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宮・赤連地区の大規模な砂丘は,ATとの関係,砂丘堆積物の
14C年代,砂丘砂に覆われるサンゴ礁段丘の年代などを基にすると, MIS 3後半の3.2~4万年前ごろに形成されたものと考えられる.MIS 3の海面変化は,20~30mの規模で4回の上下変動があり,海水準は全体として前半は−60m,後半は−80mとされる(Siddall et al., 2008),大規模な
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宮・赤連砂丘の形成は,MIS 3最新の高海面期(3.9~3.8万年前から3~2.7万年前)に対応している.
大規模な更新世砂丘は,縦列状の砂丘を呈しているのに対し,完新世の砂丘は縦列度は低い.縦列砂丘はより強い風力によって形成されるとされるので,その形成は,完新世中・後期より寒冷なMIS 3の気候環境下でのより強い卓越風が関わっていることを示唆する.
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