人身傷害保険における死亡保険金請求権の帰属に関しては,下級審裁判例が法定相続人に固有の請求権を認めたことを踏まえ,学説は人身傷害保険の法的性質及び死亡損害における相続構成の可否を中心に論じられてきた。有力な学説は,人身傷害保険が傷害疾病損害保険と位置付けられることにより,損害保険である前提から民事法の基本原則である相続構成を妥当としている。しかし相続構成と考えると,人身傷害保険の死亡保険金は被保険者の相続債権者の引当財産となってしまい,遺族である保険金請求権者にとって不利益な結果となる。そこで反対する学説は,人身傷害保険を非典型契約に位置付けるか,傷害定額保険に類似するもののように分類して,相続構成そのものを免れるようにできないか検討している。しかし,人身傷害保険が損害保険ではないとする考え方は,人身傷害保険の開発経緯や現実に果たしている役割からも疑問に思われる。
一方,人身傷害保険が損害保険であることを前提としながら,人身傷害保険の前身とも考えられる無保険車傷害保険を検討し,不法行為における損害賠償の考え方において判例でも認められている扶養構成を導入してみれば,遺族である保険金請求権者に固有の損害の発生を認めることができ,人身傷害保険における死亡保険金請求権の帰属を固有の請求権として位置付けることが可能であると考える。
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