侵入生物は、分散と増殖を繰り返しながら分布域を拡大してきた。本研究では、そのような生物の分布域拡大過程を記述する確率論的モデルを構築し、このモデルから求められる伝播速度と、対応する
決定論
的モデルの伝播速度を比較する。
本研究では、
決定論
的モデルとして、Kot et al. (1997)が提唱した積分差分方程式を採用する.このモデルは、時間が離散的で世代が重ならず、増殖と分散のステージが相前後して起こる生物集団の分布拡大過程を記述するモデルである.この
決定論
モデルに対応する確率論的モデルとして、“増殖”は平均値が
決定論
的モデルの増殖率と等しい二項分布に従い、“分散距離”は
決定論
的モデルと同じ分散カーネルに従う確率変数で与えられる場合を取り上げた。
上記確率論的モデルを数値的に解いて、
決定論
的モデルの速度の解と比較すると、伝播速度が大きく減少することが判明した。確率論的モデルの速度の遅れの原因が、“増殖”の確率性によるものか“分散”の確率性によるものかを明らかにする為、“増殖”の確率性の程度をさまざまに変えて、伝播速度の変化を調べた。その結果、“増殖”の確率性の程度は速度にほとんど影響しなかった。従って、遅れの原因は“増殖”の確率性によるものではなく、“分散”の確率性によるものであるということが判明した。
更に、確率論的モデルにおいて個体間の相互作用が及ぶ範囲(相互作用レンジ)を様々に変えて伝播速度を調べた。特に有限の相互作用レンジを持つ確立論的モデルと無限に大きい相互作用レンジをもつ
決定論
的モデルの結果とを比較することにより、相互作用の空間レンジと確率効果の関係を議論する。
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