C. lipolyticaの休止菌体を用いてクエン酸発酵機構,とくにクエン酸の前駆体オキザロ酢酸の補充路について調べ,つぎの結果を得た.
(1) 反応初期に,休止菌体によるブドウ糖の消費速度は早く,同時に中和剤存在下でも多価アルコールの生成が認められたが,クエン酸の生産性はやや劣った.しかし,短時間後にクエン酸の生産は高まるとともに,多価アルコールの生産は停止した.
(2) ブドウ糖で育った休止菌体でもn-パラフィンあるいは酢酸から短時間後にクエン酸類を生産し始めた.この場合,イソシトレートリアーゼならびにリンゴ酸合成酵素が誘導的に生成されていた.
(3) 基質がブドウ糖の場合,フルオロ酢酸を比較的高濃度に加えるとクエン酸がほぼ理論収率で生産された.これに対して,基質がn-パラフィンの場合には,クエン酸類の生産は若干抑制された.
(4) 以上の結果から,オキザロ酢酸の補充路は,基質がブドウ糖の場合には(ホスホエノール)ピルビン酸への炭酸固定反応であり,基質がn-パラフィンあるいは酢酸の場合には,グリオキシル酸回路によるものであると推定された.
(5) なお,アコニターゼ存在量の多いことが酵母のクエソ酸類発酵を特徴づけているものと推論された.
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