ベアティフィカアグリアスの後翅裏面には黒色斑が列をなし,外縁から第2列目の黒色斑は円形で内部に白色または青色の小斑点をともない,眼とひとみに例えられている.第2室から7室までの
眼状紋
には1個,1b室の
眼状紋
には2個の白色斑点が通常認められる.
眼状紋
の大きさは各個体では7個がほぼ同じであるが,亜種間では異なり,ベアータ亜種とスタウディンゲリ亜種は小さく,ベアティフィカ亜種とストゥアルティ亜種では大きい.白や青の小斑点をもたない極めて小さな
眼状紋
をペルー産4頭の雄に認めたので報告する.写真1-4は1996年7月15日にサティポ近郊のシャンキで採集された雄で,後翅赤色斑は基部に限られ,典型的なベアータ亜種である.7個の
眼状紋
はかなり小さいが,1b室と2室の
眼状紋
は特に小さい.ベアータ亜種では1b室の
眼状紋
が2個に分離している個体を半数に認めるが,この個体では一個の黒点しか認めない.拡大写真では左右の1b室
眼状紋
の辺縁に白色鱗粉が認められるが,中心部には認めない.第2室の
眼状紋
は7個の中では最も小さい.右側の拡大写真では黒線が交差しているだけで,円とは遠くかけはなれた形状をしている.左側のは虫が描かれたようで,円形とは言い難い形状をしている.写真5-8は1996年8月5日にチャンチャマーヨ(中部ジャングル地帯)コロラド河流域で採集された雄で,後翅赤色斑は基部に限られ,典型的なベアータ亜種である.7個の
眼状紋
はかなり小さいが,2,4,6室の
眼状紋
は特に小さい.1b室の
眼状紋
は2個に分離しており各々に青色小斑を認める.第2室の
眼状紋
は7個の中では最も小さい.右側の拡大写真では2-4室の
眼状紋
の辺縁に白色鱗粉が認められるが,中心部には白も青も認めない.左側の2室
眼状紋
には白の小斑が中心近くに認められるが,4室の白色鱗粉は
眼状紋
の辺縁にのみ見られる.写真9-12は1994年2月4日にペバス近郊アンピヤック河流域で採集された雄で,後翅鮮紅色斑は第4列黒色斑の内側まで拡がり,中室には2個の黒色斑の痕跡が認められ,典型的なベアティフィカ亜種である.2-4室の
眼状紋
は他と比べ2分の1以下であり,ひとみを認めない.右側の拡大写真ではやや大きい2室の
眼状紋
中心に,少数の青色鱗粉からなるひとみが認められる.3,4室の
眼状紋
の辺縁には白色鱗粉が認められるが,中心部には白も青も認めない.左側では4室
眼状紋
中心近くに白と青の鱗粉各1個が認められる.2室と3室の
眼状紋
には白も青も認めない.写真13-16は1985年8月21日にイキトス近郊イタヤ河流域で採集された雄で,後翅黄色斑は第3列黒色斑の内側まで拡がり,中室には黒色斑の痕跡が認められず,典型的なストゥアルティ亜種である.1b室の
眼状紋
は他と比べ3分の1以下であり,ひとみを1個しか認めない.右側の拡大写真では1b室の
眼状紋
は中央部でくびれ,外則部分には青色鱗粉に縁どられた白小斑が認められ,内側部分にも青色鱗粉が1個認められる.左側では1b室
眼状紋
は中央でほぼ2個の
眼状紋
に2分され,外側
眼状紋
には青色鱗粉に縁どられた白小斑が認められる.内側
眼状紋
は外側の半分以下の大きさしかなく,中心部分には白も青も認めない.しかし,その下部には白の切れ込みがあり,その上に青の鱗粉1個が認められるところから,通常の
眼状紋
が中心線で上下に2分され,下部が消失したと推測できる.ベアティフィカアグリアスの7個の
眼状紋
の形状は亜種間ではかなり異なる.著者が所有する137頭のベアータ亜種,36頭のスタウディンゲリ亜種,195頭のベアティフィカ亜種,107頭のストゥアルティ亜種をカラー写真にして比較した.1b室の
眼状紋
が2個に分離している個体は,各々全体の54%,39%,4%,4%であった.1b室の2個のひとみが全く認められない個体の比率は各々8%,6%,0%,0%であった.1b室のひとみが1個しか認められない個体の割合は各々6%,8%,0%,1%であった.
眼状紋
の形状は前2亜種間,後2亜種間では類似しており,異常型の出現頻度も似通っていたことから,各々は同一グループに属すと考えられる.後2亜種グループでは肉眼的にひとみを認めない個体は稀であるが,報告した第3と第4の個体以外では,写真を拡大すると
眼状紋
の中心に青色小斑を認めた.また,このグループで1b室にひとみが1個しかない個体は報告した第4の個体以外になく,極めて稀な変異と考えられる.7個の
眼状紋
の大きさが個体内で大きく異なることは極めて稀である.ベアータ亜種,スタウディンゲリ亜種の2亜種では,産地によって
眼状紋
の大きさは異なるが,ベアティフィカ亜種,ストゥアルティ亜種の2亜種のものよりかなり小さい.報告した第1と第2の個体の最小
眼状紋
の大きさは大差ないが,第3,第4の個体の最小
眼状紋
に比しかなり小さいのは,亜種グループが異なるためである.報告した4頭は,7個の
眼状紋
のいくつかが極めて小さく,その中心部に白や青の鱗粉を認めない点で稀な変異体であり,亜種を越えてparvulaocelli var.nov.と命名した.
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