日本色彩学会誌
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日本色彩学会第51 回全国大会カラーポッド[京都]’20 発表論文集
構造色意匠の分光特性と質感評価 --誉田屋源兵衛「孔雀羽根織」をめぐって
粟野 由美大住 雅之
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2020 年 44 巻 3+ 号 p. 243-

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抄録

 自然界にあって変化に誘発される「綺麗」を導く貝殻の真珠層,蝶や甲虫,鳥の羽根などをモチーフとした文学や造形芸術,これら天然の構造色素材を用いた工芸品は数多ある.例えば孔雀(peafowl)のうち,インドクジャクの雄(peacock)の外観形象を図案化した意匠には,眼状紋の“図としての強さ”を背景の材質や色彩選択,綿状羽枝の表現で受けて優雅な雰囲気をたたえる系と,眼状紋の“図としての強さ”を畳み掛けるサイケデリックな系がある.本稿では帯匠・誉田屋源兵衛製「孔雀羽根織」帯を含む,孔雀羽根三態について顕微鏡での微細構造観察,変角分光イメージングシステムによる光学特性計測を行い,質感印象の関連を考察した.上尾筒において極めて目立つ眼状紋の光り輝く誘目性に対して脇役とみられる綿状羽枝が,構造色を「綺麗」と感じる時間的空間的変化を蓄えていることがわかった.また,誉田屋源兵衛製「孔雀羽根織」帯の意匠が,視覚優位に応じた素材としての雄孔雀羽根意匠の2つの系には偏重せず,より触感的な印象(絨毛のような柔らかみの上に艶と光輝感)を生起させること,その要因として重要な,密集した起毛であること,その“毛”が構造色発現の構造であること,という要件を雄孔雀の上尾筒の綿状羽枝が満たしていることを確認した.

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© 2020 一般社団法人 日本色彩学会
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