1980,1990年代の東アジア地域における経済の急速な成長とエネルギー消費の増大に伴って,酸性物質による大陸規模の大気汚染の深刻化とその影響が危惧され,中でも,
硫黄酸化物
,窒素酸化物による日本への越境汚染に対する関心は高く,長距離輸送シミュレーションモデルを用いた解析がいくつか行われている。これらの多くは,計算の不確実な海域の下流である日本における実測値との比較に基づいたもので,中国大陸上での実測値との比較をしつつ大陸から海域への汚染物質の流出量を解析した例はほとんどない。 本報では,中国大陸上における大気中
硫黄酸化物
の輸送沈着のモデル計算を1992年7月から1993年2月の8か月間について行い,結果を中国のほぼ全体に分布する69地点において実測された降水中の
硫黄酸化物
濃度の月平均値と比較した。さらに,1993年5月の大気中の二酸化硫黄濃度について,中国の東海岸において航空機で観測された値と計算値との比較もあわせて行った。 これら比較に基づき,計算結果の解析例として,上記期間中の中国大陸における
硫黄酸化物
の輸送経路,収支と,大陸から各海域上空への
硫黄酸化物
の流出量を求めた。中国内の
硫黄酸化物
の湿性沈着量分布は夏季にほぼ全国に分布し,季節が進むにつれ南東方向へ移動している。また,輸送経路は北緯35.付近を境に南北で季節変化が大きく異なり,北側では西北地方から東北地方へ至る北東ないし東方向の輸送経路が存在し,季節変化が小さい一方,南側では季節変化が著しい。これらの季節変化が中国外への
硫黄酸化物
の流出量へ大きく影響していることがわかった。中国外への
硫黄酸化物
の流出量は,中国国内での湿性沈着量が多い7,8月には中国の総排出量の約25%,降水が少ない11月から2月には約50%であった。また,このうち,東側国境から東へ流出する量は,最も多くなる12月には,510GgS,中国における総排出量の37%と求められた。
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