_I_.中等教育におけるGIS活用の意義と課題 平成14年度より施行されている中等教育の学習指導要領においては、「生きる力」の育成を目的とした「総合的な学習の時間」が設定され、「生きる力」「自ら学び、考える力」の育成が強調されている。そして、地理教育においても「学び方を学ぶ学習」が取りこまれているが、授業数の縮減に伴って、地理的分野は歴史・公民的分野と比較しても大幅な改訂が行われるようになった。そのような状況の中で、大量の地理情報を地図化し、オーバーレイや空間解析などを可能とするGIS(地理情報システム)は有効な教具として考えられ、現在では多くの先駆的事例が紹介されている。しかし、教育現場では日常的にGISが活用されておらず、教育環境と活用方法に幾つかの課題があると考えられる。
そこで本研究では生徒の発達段階を考慮しながら、地理教育と不可分である地図についての「地図指導」の観点からGISを活用した教材をいくつか提案し、授業実践を交えてGISの実効性を検討していくことを目的とする。
_II_.発達段階に応じた地図指導の教具としてのGIS活用 「地図指導」は「読図」「作図」「描図」の3領域があるが(田中1996)、特に「読図」「作図」の2領域においてGIS活用が有効であると考えられる。新学習指導要領では地図に関する具体的な記述は少なく、現場での地図帳においては辞書的な扱いで終わっていることが多い。「地理的な見方や考え方」、「地理的技能」の育成のために「地図指導」の充実、地図の有効活用が強く望まれるが、現在の地図帳は多くの情報が盛り込まれており、1つの事象における空間的な広がりや連続性などを読み取る場合はやや不向きである。
そこで、GISは、簡略化した主題図の作成やオーバーレイ機能を活かした「読図」の資料作成に有効であると考えられる。また「作図」においてもGISの特質を活かし、紙地図より柔軟性のある「作図」指導が考えられるが、ここでは生徒の発達段階に応じ、GIS操作の習熟が目的になるのではないように配慮する必要がある。さらに、「作図」は生徒が主体的に活動する作業学習が多くなるため、「作図」による「問題解決」能力の育成を目的とした、「選択授業」や「総合的な学習の時間」での活用も考えられる。
_III_.中等教育における実効性のあるGIS活用のために
中等教育、特に地理教育におけるGIS活用は非常に有効であると考えられ、地理教育のアイデンティティの回復のためにもGIS導入への期待は大きい。
教育現場でのGISの普及のためにも、現在の教育課程において生徒・教師両者にとって負担が少なく、且つGISの実効性が実感できる活用方法の提示が望まれる。そのために、従来からある「地図指導」の観点から、地図帳と並ぶ1つの教具としてGISを活用することにより、より「身近な活用」を提案し、生徒の発達段階に応じてGISによる学習内容を深化させていくことが重要である。
また、GIS導入により「地図指導」の重要性を教師が再認識する契機となることも期待できる。今後は、様々な視点からのGIS活用の提案により教育現場でのGISの認知度をさらに高め、さらなる教育環境の整備と実践可能なGIS活用についての研修機会の充実等が望まれる。
※発表では、具体的なGIS活用例を紹介する予定である。
文献
田中耕三1996.『地名と地図の地理教育!)その指導の歩みと課題!)』古今書院.
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