60歳以上の老年者剖検脳約100例につき, そのアンモン角における平野小体 (Hirano et al. 1965) の出現頻度, 性状および微細構造につき検討し以下の結果を得た.
(1) 平野小体はアンモン角の Sommer 扇形部錐体細胞層にみとめられた. 検索例の46%にみられ高齢者ほど出現率が高く, 特に70歳以上で著しい.
(2) アンモン角にみられた老人斑, アルツハイマー原線維変化の出現と平野小体の出現とは平行関係を示し, 特にアルツハイマー原線維変化とよく相関を示した.
(3) 脳動脈硬化の程度とは関係がなかった.
(4) 平野小体高度出現群に痴呆の頻度が高かった. その他, 種々な原疾患, 神経症状との間に一定の相関はみられなかった.
(5) 組織学的には, エオジン好性の桿状または球状, 楕円型を示し, 神経細胞体または neuropil にみられた. トリクローム染色で赤染し嗜銀性 (-). 組織化学的に蛋白染色強陽性で, 脂質・糖質は弱陽性ないし陰性であった.
(6) 電顕的には線維性構造物よりなり, 強拡大でみると直径100Åの珠玉状フィラメントや格子状に規則正しい配列をしたフィラメントからなる. 傾斜装置でみると, これらは基本的に同一構造物であり, 径約100Åのフィラメントが規則正しく交叉して作られている. この構造物は神経細胞体, 神経突起や老人斑の中に見出された.
以上より, 老年者の大脳アンモン角における平野小体は年齢および脳の老年性変化と最も関係があり. その構造は直径100Åのフィラメントの規則正しい交叉配列によって作られた結晶様構造で, 蛋白質を主成分とする物質よりなる. その本態は不明であるが, アンモン角 Sommer 扇形部錐体細胞層の神経細胞および神経突起の変性に由来する可能性が考えられる.
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