【目的】
インターネットの利用が子どもの安全を脅かしている様々な現状から、SNSによるコミュニケーション、ゲーム等のデジタルコンテンツの利用が子どもの心身の発達に与える影響が議論されている。しかし、子ども達の身の回りのサービスの変化がもたらす消費行動や選択における変化にも焦点を当て、これからの情報社会を生きる消費者に求められる能力を検討する必要があると考える。
そこで、本研究の目的は、中学生を対象に情報社会における生活課題を取り入れた授業実践を開発、効果を検討し、家庭科教育の中でどのような能力育成が子ども達に求められるのかを明らかにすることである。
【方法】 福岡教育大学附属小倉中学校
の中学生第2学年全クラス119名を対象とした。分析対象は授業前に実施したアンケート(実施日:平成26年11月21日(金))と、授業のワークシートに設定した授業のまとめである(授業実施日:平成26年12月2日(火))。授業前アンケートでは、デジタルコンテンツ利用の実態と利用上の留意点や問題点について尋ねた(回収数113名/回収率95.0%)。授業のワークシートは末尾に授業のまとめ、学んだ内容を記載する項目を設定した(回収数109名/回収率91.6%)。どちらも調査者が直接配布・回収した。
結果分析は、Microsoft Excel2013を用い、アンケート及びワークシートの記述内容を以下2点の着目点に基づいて量的・質的に分析した。
(1)中学生のデジタルコンテンツの利用状況と利用の際に留意している点
(2)授業内の要素に対してどのような点に印象が残ったのか
【結果】
(1)デジタルコンテンツの利用状況と利用上の留意事項について(N=113)
アンケートにおいて、8種類のデジタルコンテンツを挙げ、利用の有無を尋ねた。その結果、利用率上位の項目はゲームアプリ85.8%、音楽64.6%、アイコン(画像コンテンツ)55.8%、動画50.4%となった。全くデジタルコンテンツを利用していなかった生徒は7名(6.2%)であった。 利用する際に気を付けていることをカテゴリ化し、出現率を分析し上位三項目を挙げると、価格(36.5%)と安全性(21.7%)の確認すること、口コミやアプリダウンロードの際の条件に関する記述等の情報を収集すること(19.1%)であった。
回答率から、全ての生徒が常に留意しながら利用しているわけではないことが示唆された。さらに、インターネットを介したサービスの利用際して、安全性についての記述は見られるが、利用における消費者側に求められる責務にまで思考が至っていないことが示唆された。
(2)授業のまとめにみる印象に残った要素(N=109)
授業内容に関する生徒のまとめの中で、カテゴリ上位に挙がった項目は、体験的な学習、クイズを取り入れた題材に関連する記述であった。特に、規約を読むという活動と解説をうけて、「規約確認の必要性」(24.5%)、「発言や行動の必要性」(11.5%)、「規約・ルールを守る」(9.2%)が上位に挙げられた。消費者が声を上げることで規約が変更された例を受けて、消費者が自覚的にサービスを利用し、声を挙げる社会参画の必要性への理解に繋がることが明らかになった。一方で、コンテンツの商品やサービスの特色、現実の購入方法と支払方法の違いについての記述は少なかった(2.8%)。デジタルコンテンツを模擬的に体験する活動などの導入が求められる。
また、デジタルコンテンツを全く利用したことが無い生徒も、自らの生活課題として捉えることができていた。情報技術の革新や契約方法の多様化が生活に与える影響についての理解に繋がっており、多様な生活経験に対応できる題材であることが示唆された。
本研究は科学研究費JSPS科研費 26750010の助成を受けたものです。
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