【はじめに】慢性痛には精神・認知的要素が影響する。就労者の抱える痛みとしては腰痛が代表的である。近年、就労者の腰痛に対し,身体機能として柔軟性や筋力の改善が痛みの軽減に関与する報告は散見されるが,リハビリテーション従事者を対象にした報告は少ない。本研究では,慢性痛をもつ就労者の,痛みの精神・認知的要素と身体機能の比較とともに身体活動量を指標の一つとして検討した。
【方法】対象は,リハビリテーション業務の従事者とした。3 か月以上の痛みを持つ慢性痛群9 名,健常群11 名の計
20 名とした。評価項目は,慢性痛評価としてVisual Analog Scale,Pain Catastrophizing Scale,Hospital Anxiety and Depression Scale を用いた。身体機能には,握力をスメドレー式握力計,下肢筋力を徒手筋力計で膝伸展筋トルク値
(Nm/kg)を算出し,柔軟性をFFD(Finger Floor Distance:指床間距離)で測定した。身体活動量は,身体活動量計を用いた。統計学的解析は慢性痛群と健常群の2 群をt 検定で比較し,解析にはJMP ver11 を用いた。なお,本研究はヘルシンキ宣言に則り説明し,同意を得た。
【結果】慢性痛群は,痛み期間230.6±228.1 週,VAS 36.9±27.9mm,痛み部位は腰部4 名,頭頚部3 名,鼠径部
2 名,胸部1 名,肩部1 名,膝部1 名となった。統計学的解析では,FFD は慢性痛群-5.6±8.6cm,健常群
5.13±9.2cm で統計学的有意差を得た(p<0.05)。その他の項目では,統計学的有意差は得られなかった。
【考察】本研究により,リハビリテーション従事者における慢性痛の部位は腰痛の比率が多い傾向が明らかとなった。
しかし,その他の部位においても,慢性化した痛みを訴える対象がみられた。慢性痛群と健常群の比較では,柔軟性の指標であるFFD に統計的有意差を得た。また,痛みの精神・認知的要素,身体活動量は有意差を認めなかった。就労者における慢性痛には,身体機能の柔軟性が関係する可能性が示唆された。
抄録全体を表示