細胞内・生体内におけるタンパク質機能はリン酸化、アセチル化、メチル化、グリコシル化などの
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によって高次に制御されている。特にこれらの
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は、細胞内部におけるシグナル伝達・遺伝子発現制御ネットワーク、細胞間情報伝達などにおいて非常に重要や役割を担っており、また、
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の異常は、癌をはじめとした様々な病気に直接・間接的に影響を及ぼすことが知られている。近年のプロテオミクス技術の進歩、特にタンデム質量分析技術の進歩に伴って、細胞・組織中で発現しているタンパク質を同定するだけではなく、同時に
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などに関する情報を得ることが可能になってきた。 質量分析計を用いて、
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の同定を行う場合、基本的に次の二つのステップが必要である。(i)
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を受けたタンパク質またばペプチドをソフトにイオン化し質量を決定する、(ii)
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を受けたタンパク質またはペプチドイオンを気相中で断片化し、構造情報を読み取る。
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は熱的、化学的に不安定であることも多く、それを壊さないように、ソフトにイオン化して、精密な質量電荷比を測定することが必要である。また、
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を受けたタンパク質・ペプチドなどの複合体の構造解析を行うためには、様々な特性の異なる断片化法を組み合わせることも効果的である。フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計(FTICR-MS)はルーティン的な使用時でも、定常的に一万以上の質量分解能と数ppmでの高精度質量分析を実現できる、優れた質量分析計であり、プロテオミクス分野での利用が広がっている。FTICR-MSはイオントラップ型の質量分析装置であり、超伝導マグネットが作る磁場中においたICRセル内部にイオンをトラップし、その質量電荷比を、非接触的な手法で測定することができる。また、FTICR-MSでは、ICRセル内にトラップしたイオンを、衝突誘起解離(CID)、赤外線多光子吸収解離(IRMPD)、電子捕獲解離(ECD)などの様々な手法で断片化することができるため、糖鎖付加を受けたペプチドやリン酸化を受けたペプチドなど、複雑な複合分子の構造解析に適している。 講演では、特に糖鎖付加を受けたペプチドの構造解析を例に取り、FTICR-MSを用いたタンパク質
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の同定技術についての現状を述べ、今後の生命科学においてどのような位置づけが期待されるのかを議論したい。
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