カイコ幼虫の腹壁に針を刺し, その創傷の修復過程を組織学的に究明した。傷口からは出血と共に, 腹圧により脂肪体, 気管, 筋肉などの1部が体外に突出して傷口を埋めた。30分以内に出血は止まり体液中のフェノール物質の酸化反応によりメラノーシスが起こり, 傷口全域は黒褐色に変色した。体腔内では, 傷口を塞いだ組織片の周囲に原白血球が集積した。原白血球は徐々に崩壊し, 傷口の間隙を埋め, その外側に集まった顆粒細胞は小突起を周囲に出し互いに連結しながら, 遂には細網状構造となり, 傷口全域を被覆した。一方, 傷口の周囲の真皮細胞の基底膜が伸展し, これに沿って, 新細胞層が形成された。大きな傷では, 2層の細胞層が形成され, 1層は傷口を直接包み, 他の1層は真皮細胞に連結した。脱皮時には, 傷口の下に新しいクチクラが分泌され, 傷は完全に修復された。
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