事例10 気管支鏡検査における承諾書, 検査記録の見直しをする契機となった1事例 平成9年の事例における反省から, 検査の承諾書, 検査中の記録, 検査中のモニタリングの改善を行ったので, これを報告する. じん肺および肺炎, 呼吸不全にて入院され, 肺炎改善後腫瘍マーカー上昇を認めたため気管支鏡検査を施行. 肺生検後強直性けいれんをきたし心肺停止となり, 以後蘇生後脳症にて治療, 約3ヶ月後死亡された64歳の男性患者を経験した. 患者の御家族より気管支鏡検査の適応および手技に誤りがあったのではないか?との指摘があった. また, 承諾書に御家族の同意がなく, かつ検査当日承諾書が紛失していたことも問題となった.
証拠保全
がなされた後, 弁護士同士のやりとりのみで幸い現時点では告訴には至っていない. 当科では当時からSpO2をモニターしながら検査をしていたため, 心肺停止に至る直前まで低酸素血症がなかったことを証明できたが, 正式な記録がなかったため, メモをカルテ内に貼付する形で検査中の経過を残すことになった. 手術あるいは血管造影検査などでは麻酔記録, 検査経過記録を残すのが通例であるが, 消化器内視鏡検査および気管支鏡検査では検査経過を記録として残さないことが多い. 当科では今回の事例以降, 気管支鏡検査を施行する患者全例に点滴を確保し, 検査中SpO2, ECG, 血圧をモニターすることとし, また検査経過についても血管造影検査の検査経過記録を簡略化したものを考案し, SpO2, 血圧とともに処置内容を経時的に記録することとした. また, 承諾書についても, 気管支鏡検査専用として, 検査手技の説明, 合併症と対策などが承諾書と一体化したB4サイズ1枚のものを考案し, 複写式として患者と病院と両者で保管ができるようにした. こうした処置により, 患者家族に検査の必要性とリスクを充分に理解していただくことができ, 万が一事故が生じた場合にも緊急の処置ができ, また原因究明のためあるいは家族に検査中の経過を説明するための資料を残すことができるものと考えている. 幸い本事例以降当院では気管支鏡検査に伴うトラブルは経験していない.<教訓>納得と同意を得たうえでの医療は患者にとってはこのうえない福音であろうが1例1例に払う労力は大きくなるために迅速性をある程度犠牲にしなくてはいけなくなるという面もある. これはある意味では患者の不利益につながる可能性があるが, どの辺に折り合いをつけるかは難しい問題である.
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