本稿は, 日英機械翻訳での動詞および名詞の訳語選択における結合価文法の能力を実験的に明らかにする. 結合価文法を用いると, 原言語文における用言と格要素の意味的用法が限定されるため, 正しい訳語選択ができると考えられてきた. しかし, 結合価文法は, 知識ベースの開発が困難であることから, その有効性が明らかにされていなかった. 近年, 14, 800個の結合価パターンが登録された大規模辞書「日本語語彙大系」が開発された. そこで, 本稿は, まず, IPAL辞書に登録されている基本動詞および基本名詞に関する例文, 数千文について機械翻訳を実施し, その結果を翻訳家による英訳と比較することで, 動詞および名詞の訳語選択の正確さを検証する. 次に, 機械が翻訳に誤った例文について翻訳過程を分析し, 誤り原因と改善の可能性を検討する. これらの結果, 訳語選択の正解率は, 基本動詞が89%, そして, 基本名詞が91%であった. ベースラインとして和英辞書の先頭訳語を選択する場合と比較すると, 動詞の訳語選択において結合価文法は顕著な効果が確認されたが, 名詞の訳語選択についてはそれ程の効果は認められなかった. また, 結合価文法を用いた訳語選択の方式上の正解率の限界, すなわち, 正解を導く結合価パターンが全て登録され, かつ, 形態素解析やパターン照合が完全に成功することを仮定した場合の正解率の限界は, IPAL辞書に関連する例文において, 動詞が99%, 名詞が97%となると推定した.
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