本研究では大型緑藻(
車軸藻綱
)
S. dorsidentiferumのバッチ培養実験を実施してその増殖生理特性を調査するとともに,過去約30年間にわたるその生物量変化を解析した。
S. dorsidentiferumの比増殖速度の水温・栄養塩濃度依存性は直線近似式(温度)とMonod式(栄養塩)によって表現した。Monod式における
S. dorsidentiferumの半飽和定数は,窒素制限時は0.091 mgN・L
-1,リン制限時は0.0075 mgP・L
-1であった。また最適培養温度は30℃付近であり,増殖下限温度は6.1℃,増殖上限温度は30~35℃の間にあると考えられた。
S. dorsidentiferumの細胞密度は過去30年間で減少傾向にあり,季節別の出現割合では,秋季の出現割合が低下する一方で春・冬季の出現割合が増加する傾向にあった。
S. dorsidentiferum細胞密度の実測データより算出した見かけの比増殖速度年変化は,6月にピークを持つ"一山型"(1979~1988年)から5月と10月にピークを持つ"二山型"(1999~2008年)に遷移していた。北湖今津沖中央地点では過去30年間で秋季の水温成層期間が1ヶ月程長くなった結果,
S. dorsidentiferumの沈降損失が緩和され,秋季に見かけの比増殖速度のピークが出現するようになったと推察された。また,増殖特性に基づく増殖速度解析により夏~秋季に窒素が増殖制限栄養塩となっており,これが同時期の見かけの比増殖速度の低下の一因であると考えられた。
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