乳歯列過蓋咬合の診断基準を探る目的で,乳歯列における前歯部の垂直的被蓋量と歯,歯列弓,歯槽基底弓との関連性を検討した.資料は,日本歯科大学小児歯科学教室所蔵の経年資料のうち齲蝕がなく,咬耗の少ない男児42名,女児43名,合計85名(平均年齢3歳8ヵ月)の乳歯列石膏模型である.これらの資料の左側乳中切歯の垂直的被蓋量の大きさと歯および歯列弓,歯槽基底弓の大きさならびに歯の形態,歯間空隙との関係について比較検討し,以下の結論を得た.
1)歯の大きさは,被蓋の深いものでは上顎前歯部と上下顎第2乳臼歯の歯冠長が大きい傾向が見られた.
2)歯列弓,歯槽基底弓の大きさでは,被蓋の深いものは特に下顎乳犬歯間歯列弓幅径が小さかった.
3)乳臼歯咬合面面積は,被蓋の深さとの間に有意差は認められなかった.
4)乳歯列においても切端・咬頭頂連続曲線は明らかに存在し,被蓋が深くなるにしたがってその曲線の攣曲は強くなり,咬合状態と深く関連していた.
5)歯間空隙は,被蓋の深いものでは上下顎ともに閉鎖型歯列弓が多く,特に下顎の閉鎖型歯列弓は被蓋を深くする原因のひとつとなっていた.
6)下顎第1乳臼歯の形態変異の発現頻度は被蓋の深いものでは63.4%と多く認められ,下顎第1乳臼歯の歯の大きさ,歯列弓,歯槽基底弓の大きさが異なり,下顎第1乳臼歯の形態変異は乳歯列において被蓋を深くする因子と考えられた.
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