柳沢信鴻の時代, 六義園では, 土筆・茸・栗などの採取が楽しまれ, 採取された庭の産物は, 自家消費の外, 贈答品として用いられた。本稿では, 柳沢信鴻の『宴遊目記』をもとに, 庭の産物のやりとりの様態を明らかにする。庭の産物は, 親族や趣味を同じくする仲間といった身近な人々に贈られ, その贈答は偶然性と恣意性のもとにある点で年中行事や儀礼に伴う贈答品と異なる。信鴻自身の採取・収穫物, 季節のしるし, 興趣の対象, 園の自然の豊かさの現れであることに, 庭の産物の贈答品としての特徴を認めうる。庭の産物を贈ることは, 贈る相手との間に親密さを作り出すと共に, 信鴻が, 園の自然の豊かさの分配者であり, 園の掌握者であることを示した。
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