症例は48歳の女性. 23年前より慢性腎不全のため長期血液透析を施行中であった. 平成11年1月19日の透析中に左下腹痛, 左下腹部腫瘤が出現したため当院を受診, 腹部CT・MRI 検査より非外傷性腹直筋血腫と診断した. 外来にて経過観察中, 5月7日に吐血, 前胸部痛を主訴に当院を受診した. 緊急上部消化管内視鏡検査にて上部食道から胃噴門部にかけて青紫色の血腫を認めたため, 食道壁内血腫と診断し, 保存的治療を開始した. 第5病日には自覚症状は消失した. 第13病日の食道内視鏡検査では血腫は完全に消失し, 一部粘膜脱落による潰瘍形成を認めたが, 第21病日には潰瘍瘢痕を残すのみとなり, 他に異常所見を認めなかった.
食道壁内血腫はまれな疾患で, 保存的治療で治癒する予後良好な疾患である. また, 腹直筋血腫経過中に合併した症例の報告はなく, 若干の文献的考察を加え報告する.
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