本研究では, コスト要因に時間コストを用いた場合, 食物消費量に対してコスト要因と便益要因の等価性が成立し, さらに単位価格の広範囲の変化に対して正に減速する需要曲線が記述できるか, また, 3種類の短時間セッションにおいて需要曲線の形状に違いがみられるか否かを明らかにすることを目的とした。
時間コストとして, 固定間隔 (fixed interval : FI) スケジュールが用いられた。まず4つのFI値が, 便益要因となる強化子提示時間の6秒と組み合わされた条件 (6秒条件) において, 単位価格 (FI値/強化子提示時間) が6セッション毎に上昇系列で提示された。この手続きを3種類の短時間セッション時間 (1.5, 3, 4.5時間) で繰り返した後に, 比率を固定したままFI値と強化子提示時間をそれぞれ半分にした単位価格 (3秒条件) が6秒条件と同じ手続きで導入された。コスト要因と便益要因の等価性は, 単位価格の関数としてプロットされた8つの平均消費量に対して, Hursh et al. (1988) によって提案された等式 (1) のあてはめによる分析と, 各単位価格における3秒条件と6秒条件の平均消費量の目視による分析で検討された。
等式 (1) による分析の結果, 3秒と6秒条件の構成要素の違いにもかかわらず, 1つの需要曲線で記述できることが, すべてのセッション時間で確認された (Figure1とTable1の決定係数) 。この結果より, コスト要因に時間コストを用いた場合も, 労力コストを用いた先行研究の結果と同様, コスト要因と便益要因との間に, 等価性が成立することが明らかになった。また, 目視分析の結果, 高い単位価格において, 構成要素間の等価性に逸脱の傾向がみられた。これらの結果より, コスト要因に時間コストを用いた実験場面への単位価格の拡張とコスト要因と便益要因の機能的等価性の限界が示された。
等式 (1) によるパラメータの分析により, 3種類のセッション時間の操作が, 食物消費における弾力性と水準に対して, 2個体に共通した体系的な効果を及ぼさないことが示され (Table1), さらに正に減速する需要曲線が得られた (Figufe1) 。しかしながら, 弾力性を示すaの値に注目すると, セッション時間の減少に対して, 弾力性が大きくなる傾向が1個体でみられ, 封鎖経済的実験環境の需要曲線分析において所得水準の設定が1.5時間セッションで十分であるという確証は得られなかった。
抄録全体を表示