【はじめに、目的】 医療現場における感染予防は重要である.理学療法室内は,治療用ベッドや平行棒を共有して使用する頻度が高く,交差感染の場となり得るが,室内の清掃に関する統一された決まりはなく,施設によって様々である.また,共有使用する理学療法機器の清掃方法についても,
雑巾
を使用する場合や使い捨てのアルコールタオル,また消毒薬を噴霧し拭き取る方法など施設により異なるのが現状である. そこで,本研究では簡単・迅速に汚染度の判定が可能なATP拭き取り検査装置を用いて共有機器の汚染度の変化と清拭効果についての調査,検討を行ったので,ここに報告する.【方法】 対象機器としてステンレス製平行棒を用いた.平行棒への接触を行う実験協力者は皮膚疾患及び爪に障害のない大学生40名とした.実験は9時~17時の時間帯に実施した.清拭に用いるものとして80%エタノール含浸不織布と
雑巾
(水拭き)を選択した.平行棒をアルコール清拭群(アルコール群),
雑巾
清拭群(
雑巾
群),接触するが清拭を行わないコントロール群の3群に分け,各群3区画(1区画を約100平方センチメートル)ずつ合計9区画に接触,清拭を行った.実験協力者にはプッシュアップ動作を各区画10回ずつ行わせた.その際,一度平行棒から手を離した後,次の動作へ移るよう説明した.1人につき1日2セット(セット間を1時間以上空ける)を限度とし,検査日の接触回数を統一するため,合計25セット施行された時点で1日の接触を終了した.清拭は毎日17時に行い,各区画1枚ずつのアルコール不織布,
雑巾
を用い一方向に3回拭き取るものとした.
雑巾
の処理方法は水洗い,室内干しとした. キッコーマンバイオケミファ株式会社製のルミテスターPD-20とルシパックPenを用いてATP量(汚染度)を測定した(単位:RLU).測定は同一者が行うこととし,実験1,3,5,7,9,11日目の朝9時,清拭前の17時,清拭後の3回行った.実験2,4,6,8,10,12日目は朝9時の1回とした.なお,清拭後の 測定はアルコール群,
雑巾
群のみとした. 清拭前RLUと翌日朝RLUの差を清拭前RLUで除した値を清拭効果(%)と定義し,次に清拭前RLUと清拭後RLUの差を清拭前RLUで除した値を即時効果(%)と定義し解析した.統計学的解析は,アルコール群,
雑巾
群,コントロール群の清拭効果の群間比較は一元配置分散分析を行い,多重比較にはFisherのPLSD法を用いた.またアルコール群,
雑巾
群の即時効果の比較は対応のないt検定を行った.いずれも有意水準を危険率5%未満とし,解析ソフトはStatView 5.0(SAS社製)を用いた.【倫理的配慮、説明と同意】 すべての実験協力者に口頭による実験概要について説明を行い文書にて同意を得た.【結果】 6日間の清拭効果の平均値と標準偏差は,アルコール群91.8±4.4%,
雑巾
群87.2±7.5%,コントロール群58.1±15.2%であった.アルコール群,
雑巾
群はコントロール群よりも有意に高い清拭効果を示した(p<0.01).
雑巾
群と比較し,アルコール群の方が高い清拭効果を示したが,有意差は認められなかった(p=0.18).6日間の即時効果の平均値と標準偏差では,アルコール群89.5±5.8%,
雑巾
群55.0±35.2%であった.2群の比較ではアルコール群の方が
雑巾
群より有意に高い即時効果を示した(p<0.01).【考察】 清拭効果の多重比較行ったところ,コントロール群よりもアルコール群,
雑巾
群の方が有意に高い清拭効果を示したことから清拭により汚染度を低下させることは可能であるといえる.アルコール群と
雑巾
群との比較ではアルコール群の方が高い値を示したが,2群間に有意差は認められなかったことから,清拭方法による違いはなく,拭き取ることが重要あると考えられる.次にアルコール群,
雑巾
群の即時効果を用いて2群比較を行ったところ,
雑巾
群よりもアルコール群の方が有意に高い効果を示したことから,清拭による即時効果はアルコール群の方が高いといえる. 本実験で接触により平行棒の汚染度は上昇するが,清拭により汚染度を低下させることは可能であり,アルコールを用いることでより確実な清拭による即時効果が得られることが明らかになった.また平行棒への接触により交差感染の可能性が示唆された.以上のことから,理学療法室が院内感染の場とならないように共有器具の清拭にはアルコールを用いるべきであると考える.【理学療法学研究としての意義】 理学療法機器の清掃方法について客観的データを示し効果を検証した結果は,臨床に有益な情報となり得る.
抄録全体を表示