筆者は、口誦文学の生態的な言語表現のあり方を、中国少数民族地域でのフィールドワークにより考察している。本稿ではまず、リス族の駆け落ち物語を取り上げ、物語がさまざまな価値空間で享受され、その空間に応じて物語の意味づけがさまざまに読み換えられるという口誦の物語の享受のあり方を分析する。その上で、ムラレベルの日本列島の口誦文学のあり方、『古事記』女鳥王物語のあり方をモデル論的に分析し、口誦文学以来の読み換えの技が、『古事記』という記載物語の方法として変質しつつも継承されていると述べる。
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