1,はじめに
日本の高山の風衝側斜面で普遍的に認められるパッチ状裸地(原田・小泉,1997)は,密生したスゲ類や矮性低木群落などの根系が主として
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を受けて形成された裸地であり,その風下側縁辺部にみられる小さな崖は,
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ノッチ(小泉,1984;福井・小泉,2001)あるいは単に小崖(原田・小泉,1997)と呼ばれている.日本の高山では,パッチ状裸地や
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ノッチの形成が,風衝斜面での地形形成や植物群落の分布に大きな役割を果たしていると考えられ(小泉,1984),
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ノッチの形成プロセスや形成速度を明らかにすることは重要である.そこで本研究では,南アルプス南部,悪沢岳周辺において,
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ノッチの年間後退距離を測定したので報告する.
2,調査地域と測定方法
調査地は,悪沢岳(3141 m)東方の丸山(3020 m)と赤石岳(3120 m)北方の大聖寺平(2800 m)で,地質は主に砂岩・泥岩の互層からなる.
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ノッチの年間後退距離の測定は,丸山の南向き斜面の5箇所および大聖寺平の南西向き斜面の16箇所でおこなった.
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ノッチの形態を把握するため,丸山では5 m×5 m,大聖寺平では最大傾斜方向3 m×水平方向2 mの範囲で平面図を作成し,さらに同範囲に分布する
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ノッチの縦断面図を作成した.なお
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ノッチの年間後退距離の測定方法は,原田・小泉(1997)に従った.すなわち長さ15 cmのアルミ製の棒を
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ノッチの中央部に根元まで打ち込み,1年後に露出した部分の長さを
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ノッチの年間後退距離として測定した.打ち込みは,丸山で2005年7月24日,大聖寺平で2006年8月14日,測定は丸山で2006年8月16日,2007年8月29日,2008年9月9日(抜け落ちのため欠測あり;第1図:
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ノッチ番号4),大聖寺平で2008年9月12日におこなった.
3,
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ノッチの形態と植生
丸山に分布する
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ノッチは,比高(地表面から庇頂部まで)が10 cm~20 cm程度で,深さ(奥行き)が平均4.5 cmの明瞭なノッチの形態を呈する.庇頂部にはクロマメノキなどの矮性低木群落やミヤマキンバイ,スゲ類などの草本植物が生育しており,庇からそれらの根系が垂れ下がっている場合が多い.
大聖寺平に分布する
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ノッチは,深さが平均10.4 cmあり,丸山に比べ掘り込みが大きい.庇頂部にはガンコウランやイワウメなどの矮性低木群落やハイマツの生育がみられ,根系が
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ノッチの庇から垂れ下がっている.
4,測定結果と考察
丸山:測定をおこなった5箇所の
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ノッチは,年間で平均1.8 cm後退していることが確認された(第1図).最も後退した
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ノッチで,年間4.2 cm(2006~2007年)と年間5.1 cm(2007~2008年)であった.また2006年には存在していた
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ノッチの庇が,2007年には崩壊しかけているものや,すでに崩壊しているものが存在した.そのような場所では,庇直下に崩壊起源と考えられる崩積土や,頂部に生育していたと考えられる植物の遺体が点在していた.
大聖寺平:測定をおこなった16箇所の
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ノッチは,2年間で平均2.4 cm後退していた(第2図).2006年~2008年で最も後退した
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ノッチでは,13 cmの後退がみられた.大聖寺平においても庇の崩壊が一部で確認できたが,年間後退距離の大きい
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ノッチでは,庇を植被するイワウメの剥離やガンコウランの枯死が多くみられた.
大聖寺平に分布する
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ノッチの年間後退距離の値が,丸山に分布するものと比べ大きいことから,少なくとも大聖寺平は丸山よりも風衝度が高いことが推測される.
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