1.はじめに
2011年3月11日に発災した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)に伴う津波により,東京電力福島第一原子力発電所は,全交流電源の喪失による炉心溶融によって,大量の放射性物質を大気及び海域に放出した結果,大規模な放射能汚染という未曽有の事態が発生した.
このような事態を受け,災害対策基本法に基づく防災基本計画及び原子力災害対策マニュアルの規定により,国や地方公共団体は事故直後から緊急時の環境放射線モニタリングを実施してきた.文部科学省では,非常災害対策センター(以下「EOC」と省略する)を設置し,空間線量率の測定の他に,土壌,植物,飲料水,葉菜,原乳及び雨水などの放射能濃度測定といった多種多様な情報のとりまとめおよび結果の公表を行ってきた.事故当初,これらの情報は,表形式(測定地点の付近の地名や施設名,測定結果などを記述)でまとめられたものが多かった.そのため,単なる地名・数字の羅列になってしまい,直感的に汚染全体の分布傾向の把握が困難であった.
2011年4月上旬にEOCから日本地図センターに測定データのマップ作成に関する相談があった.筆者は,EOCがこれまでに公表したデータの地図化および地図情報配信サイトのサンプル作成を行い,GISの有用性を提案した.緊急時ということもあって,提案した内容を現場で実践してほしいとの依頼があり,翌日から文部科学省に勤務することとなった.
当初の業務は,ベースとなる東日本地域の一般図の作成および提供,日々刻々と収集される測定データの地図化,海外の研究機関が公表する放射能汚染のシミュレーションマップの収集および日本語対応,政策決定のための地図資料作成(避難区域の設定等)などであり,地図の利用目的は緊急時対応が主であった.しかし,時間が経つにつれ,放射性物質の移行といった調査研究に利用目的の主眼が置かれるようになり,作成する地図内容も変化していった.
本稿では,筆者がEOCにおいて作成した地図および情報発信の内容を整理し、浮かび上がった課題について紹介する.
2.作成した放射能汚染マップの種類 作成した放射能汚染マップの主な種類は,①モニタリングポスト,②サーベイメータ,③走行サーベイ,④航空機モニタリングである.特に航空機モニタリングは,一度に広域を測定できることから,日本全域の調査が実施された.EOCは米国エネルギー省,防衛省等と連携し,航空機を用いて,上空より地表面1m高さの空間線量率を測定するとともに地表面への放射性物質(セシウム134,セシウム137)の沈着状況を確認した(図1).
3.地図情報配信サイト 放射能汚染マップの公表は,県または地方単位(小縮尺レベル)での公開であったため,住民の生活に必要なピンポイント的な情報の提供はできなかった.そこで,EOCでは,地理情報配信技術を用いて,これまでの測定結果を詳細に表示するインタラクティブな地図として「放射線量等分布マップ拡大サイト」を公開した.配信技術は,国土地理院が運営する「電子国土」をベースにしている.最大2万5千分の1レベルの地図までの拡大できるので,放射性物質の影響をより視覚的に把握でき,また,周辺の土地利用との関係も確認することができるようになった.
このようなマップ機能を提供するサイトは,2011年10月28日に公開された.公開されてから10日間で約30万のアクセスがあり,多い日には,1日で約10万アクセスを記録した.放射能汚染に対する国民の関心の高さを反映しているといえよう.
参考文献 鳥居建男
,眞田幸尚,杉田武志,田中 圭(2012)航空機モニタリングによる東日本全域の空間線量率と放射性物質の沈着量調査.日本原子力学会誌,54(3) ,160-165.
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