1) 1936年秋, 愛知県知多郡旭村新舞子にある東京大学農学部付属水産実験所の水族館において海水魚に1新疾病を見出し, これに
鹹水
性白点病なる病名を与えた。
2) 本病は最近病原体の新種報告 (SIKAMA, Y., 1961:
Ichthyophthirius marinus) を完了したので, 今後正式には
鹹水
性
Ichthyophthirius病と呼ぶのが適当と考えるが, 旧名もすでに広く通用しているので, 併用も可と考える。
3) 本病は淡水性白点病に対応する海水魚における疾病で, その病原体も淡水性のそれにきわめて近縁なる1新
鹹水
産寄生性繊毛虫である。
4) 本病の分布はきわめて広く, 病原体の確認された範囲に限定しても, 南は鹿児島県桜島から, 北は北海道小樽におよぶ。 また外国ではまだ, 病原体確認の点で不充分ではあるが, BataviaからBerlinにおよび, おそらく淡水産の
Ichthyophthiriusのそれの分布と同様, 世界的にひろがっているものと考えられる。
5) 罹病状況は病原体の繁殖至適水温, 魚類の生活至適水温およびそれぞれの地方における (あるいは水族館における) 水温との相関関係できまってくる。 天然水温下では, 南方程 (北半球で) 罹病期は長い。
6) 罹病魚種はきわめて多く, 現在知られたものは99種, その中79種については病原体が確認されている。
7) 病原体は魚体の直接海水に接する諸部の表皮直下に寄生し, さらに内部には侵入しない。 宿主が斃死すると10時間以内に, ほとんどすべて魚体から游出し去る。
8) 病原体の形態は, 淡水性白点病の病原体たる
Ichthyophthirius multifiliis FOUQUET, 1876と種々の点で類似するが, 大核の形状は顕著なる四連念珠状を呈して, 明らかに彼と区別される。 成虫の大きさは最大452μ×360μ。
9) 病原体の環境水塩分濃度に対する態度は淡水産
Ichthyophthiriusと正反対の関係で, 汽水中ではすでに胞嚢形成も阻止され, 淡水中では死滅する。
10) 病原体の繁殖は病魚から游出した虫体の胞嚢内仔虫形成による。 胞嚢の大きさはそれを作る虫の大きさに関係するが, 径200-300μのものが多く, この大きさの胞嚢は, 優に100個以上の仔虫を形成する。
11) 胞嚢から游出したばかりの仔虫の大きさは65μ×35μで, 魚体上に見出された最小個体の測定66μ×34μとよく一致する。
12) 胞嚢形成の温度範囲はきわめて広く, -2℃ (粟倉1961)-34℃ (四竈1937) におよぶ。
13) 成虫の魚体游出後胞嚢形成完了までの時間は34℃付近では1-2時間, 14℃付近では12時間あるいはそれ以上。 また, 成虫が魚体游出後胞嚢形成を径て仔虫が游出するまでの時間は著しく長短があり, 20-23℃の室内シャーレ内では8-22日, さらに粟倉1961によれば-2-10℃の低温では胞嚢は2カ月以上も休眠状態を保ち得る。
14) 胞嚢形成による繁殖法以外の繁殖, たとえば魚体上での2分裂による繁殖のごときは認められない。
15) 有性生殖法が見出されない。 この法は淡水産の
Ichthyophthirius multifiliisでもまだ見出されていない。
16) 本病原体の動物分類学上の位置は淡水産の
I. multifiliisと同属と考えられる。 しかも本属自体が将来さらに検討される必要があろうかと考える。
17) 病理解剖所見は肉眼的にも顕微鏡的にも, 病魚の体表全面すなわち鰓・口腔内壁・皮膚全面にわたり病原体の表皮直下穿孔による粘液分泌亢進・表皮増殖・表皮溷濁壊死・表皮剥脱・皮下充出血, さらに最も致命的な障害を鰓組織の破壊において認める。 病害は高水温ほど著しい。 低水温では寄生部位に著明な表皮増殖が認められる (防禦反応)。
18) 内臓諸器官および体腔には肉眼的解剖によっても, 組織学的検索によっても寄生虫体を認めることがない。
19) 症候は魚体表皮の溷濁に始まり, 病原体の内在を示す微小白点を認め, 粘液分泌亢進から皮膚表皮の剥離, 皮膚の充出血, 呼吸逼迫, 食慾停止, 衰弱しつつ窒息死。 低水温では表皮増殖性炎を主徴とする慢性化が見られ, あるいはさらに自然治癒を認めることがある。
20) 診断には必ず病原繊毛虫を鏡検し, 本虫に特有なる四連念珠状の大核を確認する。 生活虫のおしつぶし法によるのが簡便。
21) 経過は外的条件 (主として水温) や魚種によって差異があるが, 高水温では概して急性, 普通潜伏期は3-10日で極期に達し, 死の転帰をとるものが多い。 低水温では慢性の経過をとり, さらに自然治癒することがある。
22) 予防の要点は病魚や病原体の搬入防止・早期発見・隔離・水流管理による病原体成虫および仔虫の流出除去を, また治療には主として随伴外部寄生虫の除去を目的として薬浴を行なった後, 病魚を流水におき, 成虫游出後の新感染を阻止して完治し得る。 いずれの場合も,
鹹水
性白点病の対策は水流管理を第一とすべきである。 さらに特に摂餌の停止せる魚に対してその魚の嗜好する餌
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