心身症の心理・行動特徴として, 過剰適応, 失感情傾向がしばしば取り上げられる。本研究では, このような心理・行動特徴を視床下部・下垂体系のドーパミン作動系機能との関連から検討することを試みた。これらの心理・行動特徴を検討するために, 一般的によく使われている心理検査として, MMPIとエゴグラムを用いた。さらに筆者らが前研究に基づいて作成したドーパミン作動系機能と関連すると考えられる心理・行動特徴を測定するための質問項目, およびBortnerによるタイプA評価法と水口によるタイプA質問紙を参考にして作成した質問項目からなる新たな質問項目リストを用いて, 自記式質問紙では測定困難であると考えられてきたドーパミン作動系機能と関連する心理・行動特徴を測定することを試みた。エゴグラムではドーパミン作動系機能が影響を及ぼす尺度は見出されなかった。しかしMMPIでは, 心身症患者の中で視床下部・下垂体系のドーパミン作動系機能が正常反応である群の方が, 無反応である群よりもMMPIの抑うつ性尺度の得点が高い傾向がうかがわれた。このことは, 視床下部・下垂体系のドーパミン作動系機能が無反応である群の方が, 抑うつ尺度に反映されるような抑うつ感, 無気力, 身体的愁訴, 神経過敏や緊張などの心理的な問題を表現しにくいことを示していると考えられる。さらに, 新たに構成した質問項目リストを多次元尺度構成法によって分析したところ, 健常者群と心身症患者群の判別, また心身症患者のドーパミン作動系機能の無反応群と正常反応群の判別が可能であることが示唆された。この分析によって得られた結果の解釈から, 健常者群に比べて心身症患者群の方がストレスを認知しやすいことがうかがわれ, さらにドーパミン作動系機能の無反応群は正常反応群に比べて過剰適応傾向をもちながら, 日常生活におけるストレスをあまり認知していないことが示された。また同様の多次元尺度構成法によって健常者群を除外した分析, 項目数を減少した分析を試みたが, このような分析でもドーパミン作動系機能の正常反応群と無反応群の判別が可能であるという結果が得られた。このことから, 新たに構成した質問項目リストによって, 視床下部・下垂体系のドーパミン作動系機能と関連のある心理・行動特徴の測定が可能であること, したがってこの質問項目リストによるドーパミン作動系機能の判別可能性が示唆された。
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