日本の産業構造と労働事情の特殊性に触れつつ,最近の労働衛生事情と職業病の発生について概説し,あわせて労働者保健問題のありかたについて論及した。そのうち,主要な話題として,職場結核,けい肺対策のうごき,重化学工業化の進展と職業病,とくに工業中毒の増加,技術革新の進行にともなう労働衛生上の問題,などについて述べ,また日本の産業の二重構造における基底となっている中小
企業
において,労働災害と職業病が頻発しており,中小
企業
における安全と衛生を促進し,保健サービスを育成することが,当面の課題であると指摘した。 日本の労働者保健問題,とくに職業病対策における主な隘路は,一般的には,産業における安全衛生工学の未成熟と,労働衛生にたいする意識とサービスの欠如にあり,基本的には,ILO憲章と労働基準法が唱えるところの,労働者の基本的人権を尊重する社会正義の成熟が肝要であると結論した。
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