胎盤停滞は,ウシにおいて分娩後12時間以内に胎盤が子宮から排出されない状態を指し,出産後の健康状態,乳汁産生および繁殖効率を低下させる.ヒトやげっ歯類において,脱落膜の剥離にはアポトーシスが関与していることから,ウシにおいても胎膜剥離におけるアポトーシスの関与が考えられる.本研究において,ウシ胎盤停滞の発生機序を明らかにする目的で,胎盤停滞牛および正常牛の胎盤節組織におけるアポトーシス関連因子 (FAS, cFLIP, caspase [CASP] 8, BAX, BCL2, CASP3) の発現量を比較したところ,母体側胎盤節における
FAS mRNA発現は停滞牛において正常牛よりも低く,
cFLIP mRNA 発現は母体側,胎子側ともに停滞牛において正常牛よりも高かった.
CASP3 mRNA 発現は停滞牛において正常牛よりも低かった.また,胎盤節組織におけるアポトーシスの局在を単鎖DNA (ssDNA) の免疫染色により検討したところ,正常牛の胎盤節組織において停滞牛よりも染色された細胞が多く認められ,特に母体側組織に局在していた.本研究の結果から,ウシにおいて正常な胎盤の排出 (後産) には胎盤組織におけるアポトーシスが必要であること,特に母体側胎盤におけるアポトーシスの胎盤排出における重要性が示唆された.また,このアポトーシスの誘導経路はFASを介するものである可能性が示され,このアポトーシスが正常に機能しないことにより胎盤停滞の発生することが示唆された.
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