【はじめに,目的】
妊婦
スポーツは,気分転換・体力維持を目的に広く行われ,水泳・ウォーキングなどの全身
運動
が推奨されている。開始は妊娠12週以降,終了時期は定められていない。近年,QOL向上に対する有効性が報告され,周産期合併症のリスクが高い妊娠高血圧・肥満の予防・対策へも適応が拡大されてきている。しかし,
妊婦
スポーツの問題点として,流産・早産,胎児発育障害の危険性も指摘されている。各
妊婦に応じた運動
処方をするため
運動
負荷試験の実施が必要とされているが,現状,実施している施設はほとんどなく,科学的根拠のないまま
妊婦
スポーツが行われている。さらに,
運動
処方に関する報告もほとんどない。一方,内部障害領域では心肺
運動
試験(CPX)により測定される嫌気性代謝閾値(AT)を
運動耐容能指標として運動
処方に利用され,多くの施設で実施されている。今回,
妊婦
1名のATを妊娠中期から後期にCPXを実施し,
妊婦への運動
処方に関する知見を得たので報告する【方法】30歳代の女性,妊娠が正常,単児,胎児の発育に異常なし。また,既往に早産や反復する流産なし。妊娠28週・35週・39週にCPXを実施し,ATを測定した。実施にあたり,「
妊婦
スポーツの安全な管理基準」に準拠し,実施前に産婦人科医による
妊婦
・胎児の診察およびCPX実施の許可を得た。実施時間は子宮収縮出現頻度が少ないとされる午前11時から午後0時とした。CPXは,自転車エルゴメーターを用いて,安静3分間,ウォーミングアップ20W4分間の10W/minのRamp負荷で行い,呼気ガス代謝モニターCpex-1(インターリハ社製)にてBreath by Breath法によりATを測定した。安全を期するため許容
運動
強度を,母体脈拍数150bpm,自覚的
運動
強度「ややきつい」とした。さらに,測定中に腹部緊満感出現の有無を確認した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に従った。対象者に口頭および文章による十分な説明をし,同意を得て実施した。【結果】各時期とも
運動終了は自覚的運動
強度「ややきつい」であった。ATでの分時酸素摂取量・脈拍数は,妊娠28週で14.9ml/kg/watt・97beats/min,35週で13.2ml/kg/watt・106beats/min,39週で11.2ml/kg/watt・96beats/minであった。39週時においてのみ,測定終了時に腹部緊満感の出現を認めた。【考察】本研究の結果,妊娠28週・35週・39週と経過するにつれ,ATでの分時酸素摂取量が低下した。また,脈拍数は96beats/minから106beats/minであった。妊娠経過に伴いさまざまな身体変化が報告されている。その中には横隔膜の平底化,全血液量の増加,単位当たりの赤血球やヘモグロビン値の減少など,
運動
耐容能に影響する変化がある。現在,長時間の連続
運動
では母体心拍数135beats/min,自覚的
運動
強度「やや楽である」以下の
運動
強度が推奨されている。しかし,本研究の結果より,妊娠週数の経過ともに
運動
耐容能は低下する傾向を認め,徐々に負荷量を軽減する必要があると考えられた。つまり,一律の
運動
処方でなく,妊娠週数経過による身体変化に応じた
運動
処方・指導が必要であることが示唆された。今後,さらに対象を増やし,検討を重ねることが必要である。【理学療法学研究としての意義】正常
妊婦および妊婦
高血圧・
妊婦
糖尿病などの疾病管理において,科学的根拠に基づいた
運動
指導・
運動
処方が求められる。さらに,本研究の結果,妊娠週数や身体変化に対応することも重要と考えられた。今後,産科領域において,妊娠経過による多様な身体変化に対応した
運動
指導が必要であり,そのニーズに理学療法士の職能を活用することができると思われる。
抄録全体を表示