目的:受験生の身体不活動や座りがちな生活スタイルは,体力低下や心身の健康へのリスクが懸念される。本研究では,青少年の受験期前から受験期にかけての身体活動量,座位時間の変化の実態を明らかにすることを目的とした。
方法:都内の調査協力校81校(中学校45校,高校36校)のそれぞれ3年生の生徒14,879名を対象に,2018年6月(受験期前)と同年11月(受験期)の計2回,国際標準化身体活動質問紙日本語版尺度(短縮版)を用いた身体活動量および座位時間の調査を実施した。分析は,学年(中学生,高校生),性別(男性,女性),受験の有無(外部受験,内部進学,非進学)により対象者を12群に分類し,各群の受験期前から受験期にかけてのmoderate to vigorous physical activity(MVPA)と座位時間の変化をMann-WhitneyのU検定にて比較した。有意水準は5%とした。
結果:回答協力を得られた74校(中学校40校,高校34校),18,733名(2回行った調査の合計人数,中学生6,929名・高校生11,804名:有効回答率76.1%)が分析対象となった。外部受験者および内部進学者のすべての群で受験期にMVPAが有意に減少し,外部受験者は座位時間の有意な増加が認められた。非進学者の高校3年生男子のMVPAも受験期に有意に減少した。
結論:外部受験をする青少年の多くは受験期に身体不活動かつ座りがちな生活スタイルとなり,内部進学者においても,身体不活動に陥っていることが明らかになった。また,受験は非受験生の身体活動量にも負の影響を及ぼすことが示唆された。
2021年度日本運動疫学会優秀論文賞 受賞論文
本論文は、わが国の青少年期における大きなライフイベントである受験に伴う身体活動や座位行動の変化に着目しており、運動疫学研究の視点として非常に興味深い。中学3年生・高校3年生計10,000人以上の大規模サンプルを用いて、縦断的な解析を実施している点も特筆に値する。このように、視点のユニークさや方法論上の水準が高いといえる。今後、受験期の座位行動や身体活動の関連要因の解明や、受験期の座位行動を減らし、身体活動を増やす介入方略、その健康影響や受験関連アウトカム(学業成績や志望校への合格など)への影響など、更なる研究の拡がりが期待できる。
目的:柔道と陸上競技において,スポーツ傷害の重症度に関連する心理社会的要因を明らかにする。
方法:機縁法による男女大学柔道選手793人と陸上競技選手655人を対象に,スポーツ傷害の状況や競技成績,個人特性,対処資源,健康に関する事項,ストレス反応に関するアンケート調査を1年間の間隔をおき2時点で行った。初回調査時に傷害のない柔道選手222人と陸上競技選手191人を分析対象として,1年後の受傷の状況を目的変数(非受傷群/軽症群/重症群),標準化した初回調査の心理社会的要因を説明変数として,性,年齢,競技成績,過去の傷害の罹患期間にて調整した多項ロジスティック回帰分析を各競技にて行った。
結果:1年後の調査で軽症と重症の傷害発生は,柔道が40人(18%)と20人(9%),陸上競技が14人(7%)と18人(9%)であった。多変量解析の結果,非受傷群と比した調整後オッズ比[95%信頼区間]は,柔道の軽症群にて本来感 .49[.27-.90],重症群にて獲得的レジリエンス2.26[1.03-4.98],問題解決型行動特性2.86[1.30-6.27],メンタルヘルス不良3.26[1.41-7.54]であった(p <.05)。同じく,陸上競技の軽症群にて健康管理の自信感 .32[.13-.77],重症群にて資質的レジリエンス .36[.14-.91],獲得的レジリエンス2.60[1.08-6.25]であった(p <.05)。
結論:傷害の発生要因は,競技種目や重症度により異なり,また両競技とも獲得的レジリエンスは,重症傷害の発生リスクを高めることが示唆された。
2020年度日本運動疫学会優秀論文賞 受賞論文
わが国ではスポーツ障害の発生に関する良質の疫学研究は十分とはいえない。本論文では大学生アスリートのスポーツ障害の発症要因として、未だ十分に明らかにされていない心理社会的要因に着目した点が非常に興味深い。縦断調査を実施している点も研究の質を高めている。今後は、本論文で扱った陸上競技と柔道以外の種目や異なる競技レベル、大学生以外の年代でのスポーツ障害発生の心理社会的要因の解明や、それら要因に対する介入方略に関する研究など、更なる発展が期待される。また、編集委員会の特集企画で採用したテーマ「スポーツ障害と競技パフォーマンスの疫学」の趣旨によく合致する論文である。
目的:両親の収入や職業,学歴といった社会経済状況が子どもの運動時間に影響を及ぼすことが多数報告されているが,我が国の子どもを対象とした報告はほとんどみあたらない。本研究は,家庭の社会経済状況の指標として用いられている両親の学歴と子どもの運動時間との関連を検討することを目的とした。
方法:2011年7月に山梨県甲州市で実施した児童生徒の心の健康と生活習慣に関する調査に参加した小学4年生から中学3年生(9~15歳)とその両親を対象とした。両親の学歴は妊娠届出時に作成された母子管理カードより収集し,子どもの運動時間は質問紙により本人から回答を得た。児童生徒の月齢とBMIを調整したポアソン回帰分析を用いて,両親の学歴と子どもの運動時間の関連について検討を行った。
結果:658人(男子360人,女子298人)より追跡データが得られた(追跡率87.5%)。小学生の女子において,両親の学歴がともに13年以上の児童は,両親の学歴がともに12年以下の児童と比較して,1週間の総運動時間が7時間未満である割合が有意に多かった(Prevalence ratio: 1.30, 95%信頼区間: 1.00‐1.69, p = 0.0498)。男子,および中学生の女子では有意な関連は示されなかった。
結論:両親の学歴は小学生女子の運動時間と負の関連を示す可能性が示された。我が国においても子どもの運動時間に両親の社会経済状況が影響する可能性が示唆されたが,他の地域での更なる検証が必要である。
2020年度日本運動疫学会優秀論文賞 受賞論文
子どもの運動と両親の学歴という重要かつ興味深いテーマを扱った論文である。横断研究であるものの、その短所の影響を受けにくい両親の学歴を曝露要因として用いている点も研究の質を高めることに貢献している。疫学の作法に則って、丁寧に記述されている点も評価に値する。両親の学歴は容易には修正できない要因であることから、直接的な介入には困難が伴うが、健康行動(特に運動)の格差縮小のための集団レベルでの対策に資する成果となると期待される。
目的:身体活動促進のポピュレーションアプローチによる事業展開には,広報や住民認知度の向上,効果の検証,継続といった複数の局面が存在する。しかし,これら複数の局面を体系的に評価し,各局面の評価指標まで具体的に示した枠組みは見当たらない。そこで本研究では身体活動促進事業を評価する方法を作成することとした。
方法:自治体の事業(ポピュレーションアプローチ)に精通している研究者ら17名が先行研究を踏まえて評価モデルを採択し,モデルに沿って局面を測定する項目を設定した。その後,これらの項目に6市町の既存データを適用した。
結果:RE-AIMという5局面モデルが事業の多面性を反映していることから,このモデルを採択した。ただし,開始前の計画局面を付加し6局面とした。各局面の主な項目は以下のとおりである。[計画局面]健康目標やターゲット集団を定める。[採用局面]実施した行政区等の割合を算出する。[実施局面]ターゲット集団に向けた情報提供や教育機会,サポート環境の状況を記録する。[到達局面]情報や教育が提供されたターゲット集団の割合を測る。[効果局面]身体活動実施率の変化といった健康目標の達成状況を示す。[継続局面]長期経過後の採用と効果を表す。モデルを6市町のデータに適用したところ,すべての局面を評価することができた。
結論:身体活動促進のポピュレーションアプローチを俯瞰的に評価する改変型RE-AIMモデル:PAIREM(ペアレム)と測定項目を作成できた。この評価方法を活用することでポピュレーションアプローチのプロセスを随時確認・改善でき,かつ健康目標の達成具合を客観的に評価できるようになる。
2019年度日本運動疫学会優秀論文賞 受賞論文
自治体等における身体活動促進のためのポピュレーションアプローチの事業展開に際して、複数段階からなるプロセスを体系的に評価する手法を提案した研究である。目標達成状況や進捗状況の可視化などを通じて問題点が鮮明になり、事業のブラッシュアップに繋がることが予想され、ひいては集団レベルでの身体活動促進に資する研究といえる。その評価方法を確立した本論文の価値は非常に高い。非定型的な疫学研究だが、公衆衛生活動・実践的な疫学研究に役立つ研究であり、成果物であるPAIREMモデルは今後の活用が期待できる。実際、他雑誌での引用も確認されており、論文そのものの波及効果が期待できる。本論文が土台となり、編集委員会の特集企画のテーマとして「地域での身体活動・運動の普及」が採用され、論文を広く募集している。
目的:地域在住高齢者の身体活動および座位行動が転倒発生の予測因子となるかを明らかにすること。
方法:本研究は自記式質問紙調査データを用いた1年間追跡の前向きコホート研究である。調査は,島根県雲南市に居住する60~79歳から無作為に抽出した3,080人を対象に2009年と2010年に実施した。 身体活動および座位行動は国際標準化身体活動質問票短縮日本語版を用いて評価した。ベースライン時に過去1年間に転倒経験がないと回答した1,890人を対象に,1年後の転倒発生を目的変数,ベースラインの中高強度身体活動量と座位行動時間を説明変数,性,年齢,BMI,教育年数,地域,主観的健康感,憂うつ感,喫煙,慢性疾患の既往,転倒恐怖感,腰または膝の慢性痛,痛みによる薬剤使用,痛みによる医療機関受診を共変量とするロジスティック回帰分析を行った。
結果:1年後の調査で163人(10.5%)に転倒が発生していた。多変量解析の結果,中高強度身体活動量と転倒に有意な関連は認められず,中高強度身体活動量の最低位群(0 MET-時/週)と比べて,中間位群(8.25~23.0 MET-時/週)の転倒発生の調整後オッズ比は1.72 (95%信頼区間0.98–3.02),最高位群(≥75.4 MET-時/週)では1.31(95%信頼区間0.75–2.29)であった。一方,座位行動時間と転倒発生には有意な関連が認められ,座位行動時間の最低位群(0~119 分/日)と比べて,最高位群(≥420 分/日)の転倒発生の調整後オッズ比は1.96 (95%信頼区間1.02–3.79)であった。
結論:地域在住高齢者において,中高強度身体活動は転倒と関連していなかったが,長時間の座位行動が高い転倒リスクと有意に関連していた。地域在住高齢者における転倒の予測因子として座位行動時間を評価することが重要である可能性が示唆された。
2019年度日本運動疫学会優秀論文賞 受賞論文
1年という短い追跡期間ではあるものの、研究方法がきめ細やかに設定されており、かつ分析方法も感度分析、多重代入法等を用いて詳細に実施されている。そのため、得られた結果の信頼性が高いと考えられる。論文全体を通して丁寧に記載されており、完成度の高い論文として評価できる。読者に対する配慮が随所にみられ、論文執筆に不慣れな読者に対する教育的な価値も内包していると考えられ、その点も評価に値する。
“筋トレ”の疫学:Muscle-strengthening exerciseに関するナラティブレビュー
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