日本薬理学雑誌
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総説
不眠症治療薬とQOL:MT1/MT2受容体作動薬ラメルテオンの研究開発
宮本 政臣
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2008 年 131 巻 1 号 p. 16-21

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抄録
近年,不眠症治療薬のquality of life(QOL)に及ぼす影響が注目されている.既存の睡眠薬は,GABAA受容体に作用して睡眠を誘発する.GABAA受容体は,脳幹毛様体,辺縁系,海馬,小脳,脊髄,大脳皮質辺縁系など広範囲に存在し,種々の生理機能に関与することから睡眠誘発作用だけでなく,筋弛緩作用,前向性健忘,反跳性不眠,依存性などの種々の有害作用を惹起する.また,誘発される睡眠は,鎮静型睡眠と呼ばれ自然睡眠とは異なる.これに対してラメルテオン(Ramelteon,TAK-375,商品名Rozerem)は,主に視床下部視交叉上核に存在するメラトニン受容体(MT1/MT2受容体)にアゴニストとして作用してcAMP産生系を抑制し,サルおよびネコで強力な睡眠誘発作用を示した.その睡眠パターンは自然睡眠に極めて近いものであった.また,既存薬で見られる学習記憶障害,運動障害,依存性などは見られなかった.臨床試験において,ラメルテオンは入眠までの時間を短縮するとともに総睡眠時間の増加を示した.ヒトにおいても記憶障害や運動障害などの有害作用は極めて少なく依存性も見られず,反復投与においても耐性や反跳性不眠も認められなかった.また,GABAA受容体作動薬で見られるような薬物乱用性も認められず極めて安全性の高い薬剤であることが明らかとなった.以上,ラメルテオンは,ヒトの睡眠覚醒サイクルを司る視交叉上核に作用する新規作用機序を有し,副作用が少なく生理的な睡眠をもたらす不眠症治療薬として期待される.
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© 2008 公益社団法人 日本薬理学会
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