日本薬理学雑誌
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131 巻, 1 号
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総説
  • 岡本 泰昌, 小野田 慶一, 三宅 典恵, 吉村 晋平, 吉野 敦, 黒崎 充勇, 世木田 幹, 岡田 剛, 山下 英尚, 山脇 成人
    2008 年 131 巻 1 号 p. 5-10
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    われわれはストレス適応の神経生理学的基盤を明らかにするために,脳機能画像解析法を用いた検討を行っている.本稿ではその研究成果を中心に報告する.健常人を対象としたfMRIおよびMEGを用いた検討から,ストレス事象は脳内において認知されること,急性のストレスにより脳内機構の一部に変化が生じること,予測がストレス事象の入力を抑制する可能性などが考えられた.さらに,これらの機能において前頭前野を含む脳内ネットワークが重要な役割を果たしていることが推定された.また,うつ病患者を対象とした研究からは,これらの脳内機構が障害を来していることが推測され,今後,これらの研究結果をふまえて,ストレスへの適応を強化するための方策を検討していくことが重要と考えられた.
  • 辻 稔, 山田 朋子, 宮川 和也, 竹内 智子, 松宮 輝彦, 武田 弘志
    2008 年 131 巻 1 号 p. 11-15
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    元来,生体には,外界からのストレス刺激に適応するための生理機構が存在するが,過度なストレス刺激によりこの機構が異常をきたすと,様々なストレス性疾患に陥る.したがって,ストレス適応の形成に関与する脳機能を考究することは,気分障害に代表されるストレス性精神疾患の病態解明や新たな予防・治療戦略の提言につながるものと考える.本稿では,ストレス適応の形成機構における脳内セロトニン(5-HT)神経系の重要性を示唆する知見を紹介し,それらを基盤とした新たな気分障害治療薬開発の将来展望について言及する.ストレス適応モデルでは,ストレス刺激に対する脳内ノルアドレナリン(NA)神経の反応性が減弱するが,5-HT神経の反応性は維持される.また,5-HT1A自己受容体の機能が低下し,反対に,シナプス後5-HT1A受容体の機能が亢進する.一方,ストレス非適応モデルでは,ストレス刺激に対する5-HT神経の反応性の減弱と,シナプス後5-HT1A受容体の機能低下が認められる.さらに,5-HT1A受容体作動薬の投与によりストレス刺激に対する情動的抵抗性が形成されるが,この場合も,NA神経の反応性が減弱し5-HT神経の反応性は維持される.したがって,5-HT1A受容体の可塑的変化を基盤とした5-HT神経伝達の促進が,ストレス適応の形成に重要であることが示唆される.また,最近著者らが実施したプロテオーム解析では,ストレス適応モデルの脳内において,神経伝達物質の開口放出に重要なsynaptosomal-associated protein 25(SNAP-25)の発現量が増加していることが明らかとなった.このことから,ストレス適応の形成に寄与する5-HT神経伝達の促進において,SNAP-25が重要な役割を担っている可能性が考えられる.このように,5-HT神経伝達に関与している脳内分子を多角的に検索していくことが,今後,ストレス適応機構の解明研究の進展や新規の気分障害治療薬開発の糸口になるものと考える.
  • 宮本 政臣
    2008 年 131 巻 1 号 p. 16-21
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    近年,不眠症治療薬のquality of life(QOL)に及ぼす影響が注目されている.既存の睡眠薬は,GABAA受容体に作用して睡眠を誘発する.GABAA受容体は,脳幹毛様体,辺縁系,海馬,小脳,脊髄,大脳皮質辺縁系など広範囲に存在し,種々の生理機能に関与することから睡眠誘発作用だけでなく,筋弛緩作用,前向性健忘,反跳性不眠,依存性などの種々の有害作用を惹起する.また,誘発される睡眠は,鎮静型睡眠と呼ばれ自然睡眠とは異なる.これに対してラメルテオン(Ramelteon,TAK-375,商品名Rozerem)は,主に視床下部視交叉上核に存在するメラトニン受容体(MT1/MT2受容体)にアゴニストとして作用してcAMP産生系を抑制し,サルおよびネコで強力な睡眠誘発作用を示した.その睡眠パターンは自然睡眠に極めて近いものであった.また,既存薬で見られる学習記憶障害,運動障害,依存性などは見られなかった.臨床試験において,ラメルテオンは入眠までの時間を短縮するとともに総睡眠時間の増加を示した.ヒトにおいても記憶障害や運動障害などの有害作用は極めて少なく依存性も見られず,反復投与においても耐性や反跳性不眠も認められなかった.また,GABAA受容体作動薬で見られるような薬物乱用性も認められず極めて安全性の高い薬剤であることが明らかとなった.以上,ラメルテオンは,ヒトの睡眠覚醒サイクルを司る視交叉上核に作用する新規作用機序を有し,副作用が少なく生理的な睡眠をもたらす不眠症治療薬として期待される.
  • 稲垣 直樹
    2008 年 131 巻 1 号 p. 22-27
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    近年,アレルギー疾患患者の数は増加の一途をたどっており,アレルギーを克服するためのより確実な戦略の構築が望まれている.自然免疫の機構についての解析が飛躍的に進み,微生物産物を認識する受容体および細胞内シグナル伝達経路が明らかになってきた.自然免疫の機構は獲得免疫の誘導にも役割を演じることから,アレルギー克服の手がかりが得られる可能性を有する.アレルギー疾患は背景にTh2細胞優位なTh1/Th2バランスを有するとされており,バランスを矯正することがアレルギー克服につながると考えられる.また,制御性T細胞の誘導あるいは移入が免疫応答の過剰発現であるアレルギーの制御に有用であると推定される.アレルギーの発症,進展,増悪には種々の遺伝因子が関与するが,遺伝因子の発現制御もアレルギー克服に役立つと思われる.一方,強力なアレルギー性炎症抑制効果を発揮するステロイドなど,既存の薬物の効果的な使用方法も検討されている.
  • 高山 喜好
    2008 年 131 巻 1 号 p. 28-31
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    Lab on a chipあるいはμ-total analysis systemは,半導体微細加工技術や精密合成技術,微小流体制御技術を応用したマイクロ,ナノバイオデバイスである.これまで実験室規模で行われていた生化学分野における,酵素や基質の混合,反応,分離,検出の操作を比較的小さなチップ上に集積化,微細流路でそれぞれを統合,一連の操作を自動化する技術である.医薬品開発の初期段階におけるハイスループット化合物スクリーニング(HTS)や化合物の阻害機序解明にこのLab on a chip技術を応用するプラットフォームが登場している.特に,キナーゼ,ホスファターゼ,プロテアーゼ,脱アセチル化酵素といったタンパク質修飾酵素や,SHIP2,PI3Kといったリン脂質代謝酵素を標的とするリード化合物探索にLab on a chip技術は威力を発揮している.Lab on a chip技術は,従来型のホモジニアスプラットフォームとは異なる精度と感度の高い化合物評価が可能になり,これまで見逃していた弱い活性の化合物の再発見(新規リード化合物の創出)にもつながる可能性を秘めている.
実験技術
  • 四宮 一昭, 武田 康宏, 亀井 千晃
    2008 年 131 巻 1 号 p. 33-36
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    ベンゾジアゼピン系および非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は,医療現場で代表的な睡眠薬として繁用されており,それらの効果については数多くの報告がある.しかし,実験動物で,これらの薬物の薬理作用を検討した成績の多くは,健常なげっ歯類の動物を用いたものである.健常なげっ歯類動物の睡眠時間帯,すなわち昼間では,覚醒レベルが低いので睡眠薬の薬効評価に適しているとは考えられない.そこで,著者らは,ラットを用いて睡眠薬の薬効評価を行う上で有用な睡眠障害モデルを作製した.実験方法としてはラットをペントバルビタールで麻酔し,前頭葉皮質および頸部筋に慢性電極を埋め込んだ.術後1週間経過した後,実験に用いた.睡眠障害モデルは,底から7 cmの所に幅3 mmのステンレス製グリッドを2 cm間隔で取り付け,その下に水を張った観察箱にラットを置くことにより作製した.脳波および筋電図の測定は,ラットを無麻酔,無拘束の状態で,音を遮断したシールドボックス内に入れ,9時から15時までの6時間行なった.測定した脳波および筋電図の解析は,睡眠解析装置Sleep Sign Ver.2.0を用いて行なった.観察箱の底に水を張ったグリッド上に置いて測定したラットは,木屑上に置いて測定したラットと比べて,有意な睡眠導入潜時の延長,覚醒時間の増加,NREM睡眠(ノンレム睡眠)およびREM睡眠(レム睡眠)時間の減少を示した.また,木屑上に置いた場合と比べて,底に水を張ったグリッド上にラットを置いた場合では,ベンゾジアゼピン系および非ベンゾジアゼピン系睡眠薬の催眠作用を,より感度良く検出できた.これらの成績から,本睡眠障害モデルラットは,薬物の催眠作用を評価する上で有用な動物モデルであると考えられる.
  • ─急性および慢性腎不全モデル─
    高山 淳二, 高岡 昌徳, 松村 靖夫
    2008 年 131 巻 1 号 p. 37-42
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    腎不全時には,水分・電解質バランスの異常や老廃物の蓄積により生命が脅かされることから,透析療法が導入されることも少なくない.わが国の透析導入患者数は増加の一途をたどる現状であり,腎疾患治療薬の更なる開発が望まれる.著者らは,急性および慢性腎不全モデル動物を作製し,その発症・進展機構とそれらに有効な治療薬について研究している.従来から急性腎不全モデルとしては,虚血再灌流,重金属,各種薬物などによる腎機能低下モデルが用いられているが,主に著者らは腎臓の血流を一時的に遮断した後,その血流を再開通させることで発症する腎虚血再灌流障害モデルを用いている.技術的にも比較的容易であることから,安定した腎機能障害動物が得られ,実験者間の個人差も比較的少ない.費用の面でもきわめてリーズナブルである.本モデルを用いて著者らの研究室では,腎虚血再灌流障害の発症と進展に関わる種々の因子を同定するとともに,その障害をきわめて効果的に改善する薬物も見出している.一方の慢性腎不全モデルでは,腎部分切除や腎動脈分枝を結紮することにより,機能糸球体数を物理的に減少させて慢性的に腎障害を引き起こす方法が用いられることが多い.また最近では,糖尿病誘発性のモデルを用いた例も多くみられる.本稿では,誌面の都合上,急性腎不全モデルとして腎虚血再灌流障害,慢性腎不全モデルとして腎部分摘除の各モデルを取り上げ,動物の作製方法について解説する.さらに,腎機能低下の程度や進行並びに組織病変はそれぞれの病態モデルで特徴的であるため,それらがわかるように著者らの実験結果を例に挙げて記述する.
治療薬シリーズ(22)加齢黄班変性治療薬
  • 松野 聖
    2008 年 131 巻 1 号 p. 43-46
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    ヒトは外部情報の80%を視覚から脳にインプットしていると言われている.この重要な情報入手ルートを眼科疾患により遮断された場合,予想以上に不自由な生活を強いられることとなり,Quality of Life(QOL)の低下につながる.視覚機能を維持していくのに眼と脳は重要な組織として知られているが,特に眼球後部の網膜組織が重要な組織として挙げられる.しかし,この網膜組織は複雑でしかも脆弱な組織として知られており,またこの組織での障害は不可逆的であることから,視力維持に注意を要する組織であることに間違いない.今回,国内では未だ認知度は低い疾患ではあるが,加齢黄斑変性という疾患について基礎面からまとめてみた.この加齢黄斑変性は,その名前のとおり,視覚機能維持に重要な黄斑部の疾患であり,この部位の組織障害は直接的に視力低下につながる.欧米では本疾患を視力低下につながる最も重大な疾病として位置づけているが,この疾患に対する治療薬の研究は未だ完成を見ず,ようやくいくつかの製剤が承認されたばかりである.本疾患の主病態である脈絡膜血管新生と網膜色素上皮細胞や視細胞の萎縮・脱落に対する治療アプローチについてはまだまだ検討の余地が残されており,今後の基礎あるいは臨床的な薬理研究から有用性の高い薬剤の登場を期待したい.
  • 石田 晋
    2008 年 131 巻 1 号 p. 47-49
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    滲出型加齢黄斑変性の中心的病態は,脈絡膜血管新生であり,新生血管の透過性亢進による滲出性変化が神経網膜を恒久的に傷害する.近年の細胞生物学の進歩は,これらの病態における複数の分子メカニズムを明らかにしてきたため,特定の分子を標的とした阻害薬が開発される時代になった.なかでも血管内皮増殖因子(VEGF)は,進行の鍵となる2つの病態,血管新生・血管透過性亢進を促進することが明らかにされ,その阻害薬の臨床応用が実現した.眼科領域で臨床応用されたVEGF阻害薬pegaptanib(Macugen®),ranibizumab(Lucentis®),bevacizumab(Avastin®)は,黄斑浮腫・剥離や血管新生を軽減させ,少なくとも短期的には有効であることがわかった.しかし,至適な投与法,長期の安全性,既存の光線力学療法との併用についてなど,検討すべき課題が山積みされている.
創薬シリーズ(3)その3 化合物を医薬品にするために必要な安全性試験
  • 佐藤 秀蔵
    2008 年 131 巻 1 号 p. 50-54
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/01/11
    ジャーナル フリー
    視覚は社会的生活を営む上で極めて重要な機能であり,一般にヒトは情報の約80%を視覚から得ているといわれる.その障害は致死的ではないがQOLを著しく損なう.医薬品製造指針には医薬品の製造承認申請に際して実施すべき最小限の非臨床安全性評価項目およびその方法が定められており,これら一連の試験において視覚器に対する影響がみられることがある.あるいは類薬の情報,薬理作用,化学構造等から視覚器に対する影響が類推される場合がある.この様な場合にはその発現メカニズム,回復性,ヒトへの外挿性などを検討し,ヒトに適用した場合のリスクを評価する必要がある.本項では,視覚器の構造と機能について概説したあと,非臨床試験において広く用いられている眼科学的検査法(視診,検眼鏡・細隙灯顕微鏡検査,瞳孔反射,眼圧検査,眼底検査,電気生理学的検査,行動学的検査,病理組織学的検査)の概要およびその特徴,ならびに視覚毒性を誘発する主な既知薬物について述べた.
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