過去10年間に経験した急性出血性直腸潰瘍50例について,その臨床像と内視鏡所見の特徴をこれまでの報告と比較検討した.患者はこれまでと同様に男性20例,女性30例と女性に多く,平均76.3歳の高齢者であった.入院時原疾患では脳血管障害が18例と最も多かったが,下血や脱水のみの14例や大腿骨頸部骨折の7例など全身状態の良好な症例も多く,本症が重篤な基礎疾患を有する患者に限らず発症することが明らかとなった.併存症では28例に高血圧,11例に糖尿病を認め,さらに詳細の明らかな48例中47例が発症時寝たきり状態にあり,本症の発症には動脈硬化の要因と寝たきり状態という身体的要因が深く関係していると考えられた.また,本症では無痛性大量鮮出血が特徴とされるが,肛門痛のみの2例や極少量の出血の9例などがみられた.内視鏡所見では,潰瘍は多発傾向で歯状線直上の下部直腸に局在し,記載の明らかな47例中29例が全周性潰瘍を呈し,これが本症に特徴的な所見と考えられた.また,患者体位を側臥位にすることが治療法として有用である可能性が示唆された.