抄録
戦後日本の教員養成大学・学部における美術教育学の人的制度基盤は,戦後の大学での教員養成政策が教養教育重視から教職の専門性重視へ転換していく過程で成立する。師範学校が教員養成大学・学部に移行しても美術科教育の専門性は意識されなかった。昭和39年から53年にかけての学科目「美術科教育」の設置は美術科教育の専門性を形式的に出現させた。ただ時代的な余裕から教官配置の遅れや所属教官の研究内容との不整合等はあった。昭和43年からの大学院美術教育専攻の設置は,文部省の委員会による美術科教育教官の論文業績審査があり,美術教育学の内容的専門性を制度的に保証した。最初は大学院設置に関して大学や教官の温度差やコンセプトの違いはあったものの,平成11年に美術教育専攻の全国設置が完了した。大学院美術教育専攻設置によって美術教育学の人的制度基盤は成立した。