本研究は,明治期に発行された教育掛図について考察したものである。本稿では現存する文部省および東京造画館から発行された博物・理科掛図を対象として分析を行い,その特質を明らかにした。文部省が明治初期に発行した博物図は羅列的な標本画であったが,明治41 (1908)年に発行した《尋常小学理科掛図》と《高等小学理科掛図》には日本画家・飛田周山による透明感を感じさせる巧みな描写図も含んだ絵画的なものであった。同時期に東京造画館が発行した《最新理科教授用掛図》は色彩豊かで立体的かつ絵画的な描写がみられた。教科書の図版は簡素な標本画だったが,掛図は色彩豊かで生態に即した図が使用されていたことから,掛図がこの時代の児童の物のイメージを形成し,図画を描くときにはそれが想起されたと結論づけた。