抄録
本研究では,美術館において障害者が「特別に」招かれる立場として固定されるのではなく,「出演者」として美術館を紹介する動画を製作するプロジェクトを実施した。理論枠組みとしてRobert McRuerが提唱するクリップ理論を援用し,社会教育施設における障害者の位置づけを批判的に再検討した。動画製作では,障害者を含む10名が協力者となり,動画への出演のみならず内容の協議を含めて参画的に関与した。完成した4分40秒の動画は広島県立美術館の公式ホームページに掲載された。本研究では,障害の定義により障害者と非障害者の関係が変化することを示し,障害者のアイデンティティの再構築を踏まえた美術教育研究の方向性を提案している。