抄録
他者との接触を避けることができない現代社会において,いかにして積極的に他者と関わり,共生を実現させるのか。こうした問いに応答する美術教育学の先行研究のなかでも,本研究では美術の感性的な側面を強調する立場をとる。ただし,すでに指摘されてきた共愉や悦びとは異なる感性的な体験の可能性について明らかにすることを目的とした。これを明らかにするため,まず社会学の理論から「再帰性=リフレクシビティ」の概念を前提とした。その後,美術教育における感性の教育論の歴史的展開やデューイによる経験に関する理論,現代アートと美術教育の実践などを参照しつつ,他者の「痛み」を含むような感性的な体験が,私たちの認識や行動を変容させうるという結論に至った。