主催: 公益社団法人 日本食品科学工学会
会議名: 日本食品科学工学会第72回大会
回次: 72
開催地: 日本大学生物資源科学部 湘南キャンパス
開催日: 2025/08/27 - 2025/08/29
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【講演者の紹介】澤山 英太郎(さわやま えいたろう):日本大学生物資源科学部 准教授
略歴:東京海洋大学大学院 博士前期課程修了、愛媛大学大学院連合農学研究科 博士(農学)、民間養殖会社、愛媛大学南予水産研究センター 特任助教、日本大学生物資源科学部 専任講師を経て、2022年より現職。専門は水産遺伝育種学。主な研究テーマは、ゲノム情報を用いた養殖魚の選抜育種、養殖対象生物の集団ゲノミクス解析、養殖魚の逸出リスク評価など。
スーパーや市場に並ぶ魚を目にし、「美味しそうだ」と感じた経験は、多くの人に共通するものであろう。例えば、肉厚で丸々と太ったブリと、痩せたブリが同じ価格で並んでいた場合、消費者の多くは前者を選択するであろう。また、天然のマダイは美しい桜色を呈しており、その見た目の美しさから、養殖魚よりも高い価値があると評価されがちである。このように、日本人にとって魚の「見た目」は、商品価値を左右する重要な要素の一つである。演者は、大学教員となる以前、民間の養殖会社においてマダイやヒラメの稚魚を生産する「種苗生産」に従事していた。スーパーに並ぶ野菜に規格が存在するのと同様に、養殖魚にも規格が設けられており、規格内の魚を安定して供給することが求められる。そのため、種苗生産においては規格外個体の発生を如何に抑制するかが重要な課題となり、演者もこの問題に取り組んできた。特に、遺伝的要因に起因する形態異常の防除をテーマとし、選抜育種(品種改良)による効率的な対策技術の開発に注力している。本講演では、「見た目も美味しい魚をつくる」という観点から、マダイの体色異常に関する研究成果を紹介する。養殖マダイの人工種苗には、成長過程において体色が透明なまま残る個体が一定の頻度で見られる。マダイを含む魚類の多くは、孵化直後は透明であるが、成長とともに色素胞や鱗が発達し、通常の体色へと変化する。この成長過程は「変態」と呼ばれるが、マダイの透明個体は変態を経ても色素が発達せず、成魚になっても白っぽい外見を呈する。こうした個体は外観的な商品価値が著しく低いため、流通に適さない。透明個体の発生には遺伝的要因が関与していると考えられたため、演者はDNAマーカーを用いた親子鑑定を実施した。その結果、透明個体は特定の親魚の組み合わせに由来することが明らかとなった。さらに、人工授精により単一の家系から正常体色個体と透明個体を同時に得ることに成功し、この家系を対象にddRAD-seq法を用いたゲノム解析を行った。得られた一塩基多型(SNP)情報に基づき連鎖解析を実施した結果、1つの連鎖群において表現型と強く連鎖するSNPを同定した。このSNPの近傍には、甲状腺ホルモン合成に関与するduoxおよびduoxa遺伝子が存在し、特にduoxa上の非同義変異が表現型と完全に連鎖していることが判明した。さらに、透明個体では甲状腺腫大および甲状腺ホルモン量の低下が認められ、ゼブラフィッシュにおいてduoxa遺伝子をノックアウトすると透明個体が生じることから、duoxaの機能不全により甲状腺ホルモン合成が阻害され、透明化が引き起こされる可能性が示唆された。以上の結果から、透明個体は単一遺伝子による潜性遺伝で生じ、家系内で約25%という高頻度で発生することが明らかとなった。この一連の研究で開発した遺伝子マーカーは、実際の生産現場でも実用化されている。演者はこのような研究をマダイとヒラメで精力的に進めており、不味そうに見える魚を排除し、「見た目も美味しい魚」を安定して生産する技術基盤が整いつつある。