【講演者の紹介】髙橋 希元(たかはし きげん)東京海洋大学 学術研究院 食品生産科学部門 准教授
略歴:2017年3月 東京海洋大学大学院 博士後期課程 応用生命科学専攻修了、博士号(海洋科学)取得。博士研究員を経て、2018年4月 東京海洋大学 学術研究院 食品生産科学部門 助教に着任、2023年4月より同部門 准教授。専門は食品物性学、水産加工学。活け締め、脱血、熟成からすり身ゲルまで鮮魚の水揚げ時の処理から加工まで一連の研究を行っている。
従来、魚の品質においては鮮度が重視されてきた。鮮度には様々な解釈が成立し得るため定義が難しいが、一般には致死直後からの性状変化の度合いと考えることができる。つまり、水産物における鮮度保持とは、漁獲後の性状を保存中に維持することを意味する。 我が国においては、魚の鮮度保持を目的に活け締めと呼ばれる方法が伝統的に用いられてきた。活け締めは活魚の即殺、脊髄神経の破壊および脱血の一連の工程を含むものである。長年、漁師や鮮魚仲卸業者等の経験に基づき行われてきた方法であるが、近年それぞれの工程の持つ有用性が科学的に明らかにされてきた。またSNSにより人気を博した津本式など、新たな手法も開発されつつある。さらには日本国内のみならず、フランスなど欧米諸国においても日本料理人気の高まりとともに、鮮魚の品質向上の観点から活け締めの有用性が注目され始めている。これら国際的な活け締め技術への関心の高まりは、日本政府が主導する水産物輸出促進における鮮魚の高品質ブランド化にも貢献する可能性がある。 一方、近年では鮮度の良さという既存の品質価値とは異なり、低温で一定期間熟成させる、いわゆる「熟成魚」も魚肉の新たな品質向上方法として注目を集めている。熟成とは、鮮度を重視した品質保持とは異なり、一定条件(温度・期間等)のもとで品質をより良いものに変えていくという考え方であり、熟成魚においてはねっとりとしたテクスチャーと濃厚なうま味が特徴とされる。熟成魚は寿司店等の外食産業を中心に注目されてきた。これは鮮度の良い魚とは異なる美味しさを有するという付加価値の側面と、熟成期間が1週間から最長2カ月以上に及ぶため、在庫のコントロールが容易であり、食品ロスが少なくコスト面で有利な場合があることが、その理由として挙げられる。筆者はこれまでに熟成魚の特徴的なテクスチャーやうま味成分の増加がタンパク質分解によるものであり、また水産物有効利用の観点からも有用であることを明らかにしてきた。 本講演では「美味しい魚をつくる」ために水揚げ後にどのような処理・加工をすべきかという観点から、上述の活け締めによる鮮度保持および熟成による品質向上などについて、筆者らのこれまでの研究成果を含め解説する。また血液は血管内で迅速に凝固するにもかかわらず、なぜ鮮魚品質の劣化に関わるのか、脂質含有量が多い魚肉のほうが熟成に向くというのは本当か、といったこれまで解決されていない問題についても、最新の知見を踏まえ概説する。